・・・アイスランドの火山 Askja は同国古語の Askaであるとすれば、これは英語の ashesと親類だそうである。そこで今度は試みに「灰」を意味する語を物色してみると、サンスクリットに Bhasman, Bhuti があるが、この前者は A・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・ペルシアの春は bahr, 蒙古語では h'abor である。ドイツ語の Frhling は frh から来たとすればこれはfとrである。かなで書くとみんなハ行とラ行と結びついている点に興味がある。アイヌ語の春「パイカラ」はだいぶちがうが、・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・無論、古語というものは我々の言語の源であり、我民族の成立と共に、我国語の言語的精神もそこに形成せられたものとして、何処までも深く研究すべきはいうまでもない。しかし言語というものは生きたものということを忘れてはならない。『源氏』などの中にも、・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・今の代の人、女子に衣服道具抔多く与へて婚姻せしむるよりも、此条々を能く教ふること一生身を保つ宝なるべし。古語に、人能く百万銭を出して女子を嫁せしむることを知て十万銭を出して子を教ふることを知らずといへり。誠なる哉。女子の親たる人、此理を知ず・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・西洋の学者は、必ずラテン、ギリーキの古語を学び、そのほか五、六ヶ国の語に通ずる者少なからず。東洋諸国に来たる欧羅巴人は、支那・日本の語にも通じて、著述などするものあり。西洋人に限り天稟文才を備うるとの理もあるまじ。ただ学問の狭博はその人の勉・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・自力自立の覚悟あれば、夫婦相対して夫に求むることも少なく、之を求めて得ざるの不平もなく、筆端或は皮肉に立入りて卑陋なるが如くなれども、其これを求めざるは両者の間に意見の衝突を少なくするの一助たる可し。古語に衣食足りて礼譲興ると言う。婦人に資・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・古語 もまた蕪村の好んで用いたるものなり。漢語は延宝、天和の間其角一派が濫用してついにその調和を得ず、其角すらこれより後、また用いざりしもの、蕪村に至りてはじめて成功を得たり。古語は元禄時代にありて芭蕉一派が常語との調和を試み十分に成功・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・きっと、それは一つの古語になるだろうと思われる。昔は、女らしさというようなことで女が苦しんだのね。まアねえ、と、幾世紀か後の娘たちは、彼女たちの純真闊達な心に過ぎし昔への恐怖と同情とを感じて語るのではあるまいか。私たちはそういう歴史の展望を・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
出典:青空文庫