・・・れは芝居と思えないほど、熱心に聞いて、ふたりで何かと研究し、相談し、あしたは大丈夫だ、あしたは大丈夫だと、お互い元気をつけ合って、そうして寝て、また朝早く、山へ出かけて、ほうぼう父に引っぱりまわされ、さんざ出鱈目の説明聞かされて、それでも、・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・私は、ちゃんと、それを知っていますから、こうして縁側の明るみに出されて、恥ずかしいはだかの姿を、西に向け東に向け、さんざ、いじくり廻されても、かえって神様に祈るような静かな落ちついた気持になり、どんなに安心のことか。私は、立ったまま軽く眼を・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・それでいいもんや。さんざ男を瞞した人の行末を見てごらんなさい。ずいぶんひどいもんや」 そしてお絹がそういう女の例を二つ三つ挙げると、最近客と京都へ行っていて、にわかに気の狂った近所の女の噂で、またひとしきり持ちきった。 道太は何をす・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・戦争がうんとひどくなるすこし前に政府は日本じゅうに踊をはやらせて、ものを真面目に研究したり考えたりする年頃の若い人を、さんざ踊らせました。 踊りふけっているとき、頭の中に何があるでしょう。今日、豊年という日本の秋には、深刻な失業の問題が・・・ 宮本百合子 「朝の話」
出典:青空文庫