・・・原始キリスト教では、キリスト復活の第一の姿をマリアが見たとされて、愛の深さの基準で神への近さがいわれたのだが後年、暗黒時代の教会はやはり女を地獄と一緒に罪業の深いものとして、女に求める女らしさに生活の受動性が強調された。 十九世紀のヨー・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ 町会か或は在郷軍人会の、そういうところの人々がより合って、名誉を記念する方法を講じたとき、こういう情景が生じる場合もあり得ることを思っていただろうか。隣同士というものの生活がそこまで、まざまざと現れることへの想像が働かなかったのではな・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・ 恋愛に対し、婦人に対して、トルストイの抱いていた宗教的・道徳的見解を今日から見れば或る意味で主観的であり独断的である罪業感であったと云える。貴族の夫人、娘としての周囲の日暮しにも批判をもち、子供を生み、それを辛苦して育てることばかりが・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・自分を死んだものとして無責任に片づけ、而も如何にも儀式ばった形式で英霊の帰還だとか靖国神社への合祀だとか、心からその人の死を哀しむ親や兄弟或いは妻子までを、喪服を着せて動員し、在郷軍人は列をつくり、天皇の親拝と大きく写真まで撮られたその自分・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ 地方から衛生課長か何かが在郷軍人か何かをつれて来たそうだがあまり恐ろしい有様におぞげをふるって手を出さず戻ってしまい人夫も金はいくらやると云ってもいやがってしない。ために巡査がしなければならない。 ○焼け死んだ人のあるところは、往・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・というおそろしい言葉が犯して来た罪業の数々を、わたしたち文学者は忘れることが出来ない。必ず、それは悪用される。現在の日本の事情では、害あって益ない出版取しまりの法律などをつくることはしないという出版綱領委員会の決定になりました。この委員会の・・・ 宮本百合子 「「チャタレー夫人の恋人」の起訴につよく抗議する」
・・・学校仲間、在郷軍人、親類などから祝によばれたり呼んだりするので母親はせわしがってるとうれしそうに云って行った。 高橋の息子が帰った頃から又寒さがました様で、段々空気は荒く、風の吹き様もなみではなくなって来た。祖母は、吹雪の時の用心に屋根・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・万葉とは対蹠的な罪業や来世の観念に貫かれた王朝の精神というものを、万葉とともに、抽象的な情熱として愛するということは、殆ど理解しがたい迄に困難である。 このように相反する時代精神を享受する情熱が、何故に芭蕉の芸術的精神を肯けないのであろ・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・午前二時三時となり、段々信州の高原にさしかかると、停車する駅々の雰囲気が一つ毎に、緊張の度を増して来た。在郷軍人、消防夫、警官などの姿がちらつき手に手に提灯をかざして、警備している。福井を出発する時、前日頃、軽井沢で汽車爆破を企た暴徒が数十・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
出典:青空文庫