・・・二人は青い草の中に足をのばしてこまどりの声をききながら歌をうたうような軽いしめやかな調子で話す女の物語をききました。その物語は、女の小さい時に森の中のくるみのすきなリスからきいたのだそうです。可愛い小さいお話でした。女は詩人の頸を白い手でし・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・話はしめやかである。ただ富田の笑う声がおりおり全体の調子を破って高くなる。この辺は旭町の遊廓が近いので、三味や太鼓の音もするが、よほど鈍く微かになって聞えるから、うるさくはない。 竹が台所から出て来て、饂飩の代りを勧めると、富田が手を揮・・・ 森鴎外 「独身」
・・・そうして、この簡素な太い力の間を縫う細やかな曲線と色との豊富微妙な伴奏は、荘厳に圧せられた人の心に優しいしめやかな手を触れる。―― もとより我々の祖先は、右のごとき感じかたをしたわけではあるまい。しかし彼らはとにかくその漠然たる無意識の・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫