・・・と主婦は顔をしかめながら、例の人の難儀をすてて置かれない性分で早速、医者を迎えた。今じきにあがりますと云いながら、夕方になっても来て呉れないので、家の者は、書生が悪いと云ったので一寸逃れをして居るのだろう、お医者なんて不親切なものだ・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
・・・それは人々に対する深刻な冷淡さ、これが断然ゴーリキイの性分に合わぬ。しかし、ヤコヴはゴーリキイからお前は石だねと云われた時、ゴーリキイの心臓に注ぎ込まれて忘られぬ言葉を云った。「おかしな男だな! 石と来たか?――だが、お前は石をも可哀想・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・化学なんという奴は丁度己の性分に合っているよ。酸素や水素は液体にはならねえという。ならねえという間はその積りで遣っている。液体になっても別に驚きゃあしねえ。なるならなるで遣っている。元子は切ったり毀したりは出来ねえ。Atom は atemn・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・君は又そんな事に拘泥せぬ性分であったのである。これは横著なのでも、しらばっくれたのでもないと、私は思っていた。年久しく交際した君が、物質的に私を煩わしたのは只これだけである。 程なくF君は帰って来て、鳥町に下宿した。そしてこれまでのよう・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫