・・・ことに「西遊記」を翻案した「金毘羅利生記」を愛していた。「金毘羅利生記」の主人公はあるいは僕の記憶に残った第一の作中人物かもしれない。それは岩裂の神という、兜巾鈴懸けを装った、目なざしの恐ろしい大天狗だった。 七 お狸様・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・ここでは手近な絵本西遊記で埒をあける。が、ただ先哲、孫呉空は、ごまむしと変じて、夫人の腹中に飛び込んで、痛快にその臓腑を抉るのである。末法の凡俳は、咽喉までも行かない、唇に触れたら酸漿の核ともならず、溶けちまおう。 ついでに、おかしな話・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・アレだけの長い閲歴と、相当の識見を擁しながら次第に政友と離れて孤立し、頼みになる腹心も門下生もなく、末路寂寞として僅に廓清会長として最後の幕を閉じたのは啻に清廉や狷介が累いしたばかりでもなかったろう。四 沼南は廃娼を最後の使・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・当時の大官貴紳は今の政友会や憲政会の大臣よりも遥に芸術的理解に富んでいた。 野の政治家もまた今よりは芸術的好尚を持っていた。かつ在官者よりも自由であって、大抵操觚に長じていたから、矢野龍渓の『経国美談』、末広鉄腸の『雪中梅』、東海散士の・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 演説会 民政派の演説会には、必ず、政友会の悪口を並べる。政友会の演説会には、反対に民政党の悪口をたゝく。そういう時には、片岡直温のヘマ振りまで引っぱり出して猛烈に攻撃する。 演説会とは、反対派攻撃会である。 そ・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・それから「西遊記」、「椿説弓張月」、「南総里見八犬伝」などでやや「人情」がかった読み物への入門をした。親戚の家にあった為永春水の「春色梅暦春告鳥」という危険な書物の一部を、禁断の木の実のごとく人知れず味わったこともあった。一方ではゲーテの「・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 赤羽のリンク半日の清遊の帰り途に、円タクに揺られているうちにこんな空想が白日の夢のように頭の中をかすめて通ったのであった。 ついでながら、人間のする大概の所業は動物界にもその原型を見出すことが出来るが、ただ「煙」をこしらえてそ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・「絵本西遊記」を読んだのもそのころであったが、これはファンタジーの世界と超自然の力への憧憬を挑発するものであった。そういう意味ではそのころに見た松旭斎天一の西洋奇術もまた同様な効果があったかもしれないのである。ジュール・ヴェルヌの「海底旅行・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・『西遊記』の怪物孫悟空が刑罰のために銅や鉄のようなものばかり食わされたというお伽話はあるが、動物が金属を主要な栄養品として摂取するのははなはだ珍しいといわなければなるまい。もっとも、人間にでもきわめて微量な金属が非常に必要なものであると・・・ 寺田寅彦 「鉛をかじる虫」
・・・わたくしは病床で『真書太閤記』を通読し、つづいて『水滸伝』、『西遊記』、『演義三国志』のような浩澣な冊子をよんだことを記憶している。病中でも少年の時よんだものは生涯忘れずにいるものらしい。中年以後、わたくしは、機会があったら昔に読んだものを・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
出典:青空文庫