・・・この大変災を機会として、すべての人が根本に態度をあらためなおし、勤勉質実に合理的な生活をする習慣をかため上げなければならないと思います。 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・高等学校へはいってから、かれの態度が俄然かわった。兄たち、姉たちには、それが可笑しくてならない。けれども末弟は、大まじめである。家庭内のどんなささやかな紛争にでも、必ず末弟は、ぬっと顔を出し、たのまれもせぬのに思案深げに審判を下して、これに・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・お負にそれを洒々落々たる態度で遣って除ける。ある時ポルジイはプリュウンという果の干したのをぶら下げていた。それはボスニア産のプリュウン二千俵を買って、それを仲買に四分の一の代価で売り払った時の事である。これ程の大損をさせるプリュウンというも・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・いつも逢う顔に違ったところで逢うと、なんだか他人でないような気がするものだが、男もそう思ったとみえて、もう少しで会釈をするような態度をして、急いだ歩調をはたと留めた。娘もちらとこっちを見て、これも、「あああの人だナ、いつも電車に乗る人だナ」・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・ 哲学者の仕事に対する彼の態度は想像するに難くない。ロックやヒュームやカントには多少の耳を借しても、ヘーゲルやフィヒテは問題にならないらしい。これはそうありそうな事である。とにかく将来の哲学者は彼から多くを学ばねばなるまい。ショーペンハ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・恐ろしい企をした、西洋では皆打殺す、日本では寛仁大度の皇帝陛下がことごとく罪を宥して反省の機会を与えられた――といえば、いささか面目が立つではないか。皇室を民の心腹に打込むのも、かような機会はまたと得られぬ。しかるに彼ら閣臣の輩は事前にその・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・いわゆる責任ある地位に立って、慎重なる態度を以て国政を執る方々である。当路に立てば処士横議はたしかに厄介なものであろう。仕事をするには邪魔も払いたくなるはず。統一統一と目ざす鼻先に、謀叛の禁物は知れたことである。老人の※には、花火線香も爆烈・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ ちかごろ三吉は、何かにつけさぐるような母親の口ぶりや態度にあうと、すぐ反ぱつしたくなる自分をおさえかねた。それで、「ほら、勘さんとこの――」 と、母親がいった瞬間、夢からさめたようになった。「おれ、いやだっていったじゃない・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ 逢うごとにいつもその悠然たる貴族的態度の美と洗錬された江戸風の性行とが、そぞろに蔵前の旦那衆を想像せしむる我が敬愛する下町の俳人某子の邸宅は、団十郎の旧宅とその広大なる庭園を隣り合せにしている。高い土塀と深い植込とに電車の響も自ずと遠・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・こういう果敢ない態度が酷く太十の心を惹いた。大勢はまだ暫くがやがやとして居たが一人の手から白紙に包んだ纏頭が其かしらの婆さんの手に移された。瞽女は泊めた家への謝儀として先ず一段を唄う。そうして大勢の中の心あるものから纏頭を得て一くさり唄うの・・・ 長塚節 「太十と其犬」
出典:青空文庫