・・・あわれに打ちくだかれた骨の正しい手当、また傷の中の小銃弾や大砲の弾丸の破片をX光線の透写によって発見する装置が、この恐ろしい近代戦になくてもよいのであろうか。 キュリー夫人は科学上の知識から、大規模の殺戮が何を必要としているかを見た。罪・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・戦争で、ムザムザ若い命を大砲、毒ガスの餌じきにされるのは誰だろうか? 世界平和を守るという不動の方針と展望の上に腰を据え、平和のための実力を充実させるためにソヴェトのプロレタリア・農民は五ヵ年計画の達成に精を出している。どう難癖をつけよ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・饒舌の無価値をはっきりと見抜き、歴史の変化する真の動機は一人や二人の政治家の女あらそいなどにかかわらず、もっと別なところ、即ちフランスの場合ではドイツに対する伝統的な対立にかかわらず、又ゲーリングの「大砲はバタよりもずっと重要だ」という一九・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・イギリスの母たちは、「わたしたちの息子は大砲の餌食ではない」と書いたプラカードを立てて整列した。 現在、地球のいくところかで戦争行為が行われている。けれども、世界の声は、何を叫んでいるだろうか、平和である。 国連は、いろいろの矛盾に・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・ この時突然、店の庭先で太鼓がとどろいた、とんと物にかまわぬ人のほかは大方、跳り立って、戸口や窓のところに駆けて出た、口の中をもぐもぐさしたまま、手にナフキンを持ったままで。 役所の令丁がその太鼓を打ってしまったと思うと、キョトキョ・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・檀家であった元小倉藩の士族が大方豊津へ遷ってしまったので、廃寺のようになったのであった。辻堂を大きくしたようなこの寺の本堂の壁に、新聞反古を張って、この坊さんが近頃住まっているのである。 主人は嬉しそうな顔をして、下女を呼んで言い附けた・・・ 森鴎外 「独身」
・・・ 女。大方そうだろうと存じましたの。 男。実は夜寝ることも出来なかったのです。あのころはわたくしむやみにあなたを思っていたでしょう。そこで馬鹿らしいお話ですが、何度となく床から起きて、鏡の前へ自分の顔を見にいったのですね。わたくしも・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・その道を論じまた教えうるには、大宝令に規定しているように、それぞれ人がある。政治はこの道を実現せんとする努力である。国家はこの道或いは理念の実現でなくてはならない。我々の国家が或る権力の代表者を主権者とせずして、道の代表者を主権者とすること・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫