・・・大阪は安井銀行、第三蔵庫の担保品。今度、同銀行蔵掃除について払下げに相成ったを、当商会において一手販売をする、抵当流れの安価な煙草じゃ、喫んで芳ゅう、香味、口中に遍うしてしかしてそのいささかも脂が無い。私は痰持じゃが、」 と空咳を三ツば・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・もう、いつかは私は追い出すつもりでいたのでしょうし、とても永くは居られない家なのだから、きょうを限り、またひとり者の放浪の生活だと覚悟して、橋の欄干によりかかったら、急にどっと涙が出て来て、その涙がぽたんぽたんと川の面に落ち、月影を浮べてゆ・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ 先ずはじめに銘々の持ちものを何か一つずつ担保 gage として提供させる。それから一人「船長」がきめられる。次にテーブルを囲んだ人々の環を伝わって卓の下でこそこそと品物が廻される。口々に La mer est calme, la me・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・賀し且儂が春衣を美む店中有二客 能解江南語酒銭擲三緡 迎我譲榻去古駅三両家猫児妻を呼妻来らず呼雛籬外 籬外草満地雛飛欲越籬 籬高随三四春草路三叉中に捷径あり我を迎ふたんぽゝ花咲り三々五々五々は黄に三々は白・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫