・・・彼の妻で、知名なダンサーであるラタン・デビーのことなどをきいているところへ、女中が名刺を取次ぎ、一人の客を案内して来た。その顔を何心なく見、“Glad to see you”と云いながら、自分は思いがけない心地がした。 この人は、先赤門・・・ 宮本百合子 「思い出すこと」
・・・マリアはフランスの衛生施設の組織を調べて、一つの致命的と思われる欠陥を見出した。それは後方の病院にも戦線の病院にもX光線の設備をほとんど持っていないという事である。あわれに打ちくだかれた骨の正しい手当、また傷の中の小銃弾や大砲の弾丸の破片を・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・ギャラップの米国世論研究所は、ダイジェストと全く似た理由によって致命的な失敗を示した。小山栄三氏は次のようにかいている。「ギャラップがダイジェストと同様に労働階級の投票率を誤算したのではなかったろうか。即ちAFL、CIOの二大労働組合がタフ・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・聖ロカの医者にはそういう致命的な問題がちっ共みえていなかったのです。私の命と一緒にもう二つ拾ったので、それというのもまず私が死んだからで相当感謝されています。私は今、回復期のきわめて滑稽な状態で、自分の疲れ方が見当がつかないところがあって、・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・「文学のために人生をすてているんだから、その致命的なものは、どうにもならない。中野さん、あなたはこれからも批評家として行くわけですが、このことは重要なことですよ」中野 ……「文学者御前会議」につれて林が人生と云っているものが、まとも・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・特に知名な科学者の随筆などが求められる傾きがつよくあった。注意をひかれざるを得ないのは、一部の科学者をジャーナリズムに招き出したこの時期は、読書人の間に随筆が迎えられた時、内田百間氏が「百鬼園随筆」によって第一段の債鬼追っ払いをした時代であ・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・ 或る知名な技術家に十六七の娘さんがいて、そのひとは数学が大変すきだ。女学校へ入った頃から特別に指導者をもってよろこんでその道を辿り、現在では高等数学の相当のところまで行っている。その娘さんが女学校を出てから更に専門の教育をうけて、婦人・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・ 家庭購買組合も見たところ大きい規範で経営されてはいるけれど、各戸を実際にまわっている実務員が報酬を歩合い制でもらっているものだから、月の売上げの多額なところへ便宜を計るという致命的な弱点をもっている。少人数の家では少額ならざるを得ない・・・ 宮本百合子 「主婦意識の転換」
・・・そういう避けることの出来ない事情におかれた若い人々にとって最も致命的であった点は、ただ外に現われた生活の道が強い権力によってへし曲げられたということばかりではなかったと思う。本人達にとって決して自然に受けとれない、納得出来ないそれ等の生活の・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・日本のつつましい女性は、ほとんど全部が海の彼方の生活は知らず、地名もなじみない彼方に遠く、手紙さえ書けず、はかなく愛するものを死なした。 すこし深めて、第二次世界戦争のいきさつを眺めてみると、私たちを非常におどろかせる事実がある。それは・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
出典:青空文庫