・・・なかでも弱い女の蒙っている打撃の致命的な深刻さを痛切に理解し、一刻も早い適切な処置を思うなら、戦犯で潰れた反動政党へ、どうして女が入られよう。家庭を奪い、愛する男たちを殺し、傷け、今日の日本をもたらした、その戦犯の仲間に、女である、という唯・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・ 奇妙な別離「魂と魂との結合が完きものであったときには、この美しい感情の極致を傷けるいかなるものも致命的なのだ。悪党どもなら匕首を振った後に仲直りするような場合にも、愛する者同志は、ただ一瞥一語のためにも仲をた・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・嘗て、或る知名な女流歌人が右のような行為に出た時、都下の或る大新聞は、文化の最高指導者たるべき紙面を、全部その報告、ドキドキさせるようなロマンチック・センセーションで埋めまでした。寧ろ、悲惨な心持がせずにはいない。それほど、皆が心を動顛させ・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・行きずりの若い女の人の話がふと耳に入ると、その言葉の中には、その人が引揚げて来た遠い国の地名がいわれていたりする。生活経験というものだけが、文学を創る可能性であるなら、日本に婦人作家は輩出しなければならない。どんな人でも、語るべき一つの物語・・・ 宮本百合子 「婦人の生活と文学」
・・・自然の起伏を利用した規則正しい区画、東と西の大通りを縁どる並木、自動車路など、比較的落付いた趣があったので、知名な俳優や物持ちが別宅などを建てた。石川は、そのようにしてだんだん××町が開けて行く草分から町の入口――よく小さい別荘地の入口に見・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・罪科もないのに苦しみを受けた致命者なんだから……」 ゴーリキイは、いかにも彼の性質らしい現実的な問いを発した。「あの雀は死んでいないのかい?」「いや、物置に飛んで来たのを帽子でおさえてしめ殺したんだ」「何だってさ!」「何・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・広告などに出るようなのは、大抵地名を見ただけでも興味を持てない其近辺が多いのである。 又暫く気を揉まなくてはなるまいとは、二人の覚悟したことであった。容易に、都合よい家などのあるものではない。 どうせ、長く居る積りで越すなら、 ・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・医者は、これを致命的危険のシムボルとするのである。人民の貯蓄は、昨年末から、大干潮のように減少しつづけた。反対に、物価は、上へ、上へと、のぼりつめて、二本の線を、もすこしのばせば、其は完全な十の字となってぶっちがうところ迄来た。モラトリアム・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・或る状態の裡からあるがままの自己をひっさげて出て来さえすれば、精神を自由にすることが出来ると思い込みかけたところに、この期の致命な危険が隠されていました。今思うと、実におそろしい。情熱は反動的に働く性質を有つ為本性とはぐっと歪んだ路に、自己・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・「なに、教師をしていると、人名や地名の説明を求められますから、この位な本がないと、心細いのです。」 F君と私とは会話辞書の話をした。Meyer と Brockhaus との得失を論ずる。こう云うドイツの本が Larousse や B・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫