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・・・このようなところから考えても、ドストエフスキイが伯爵であるトルストイの作を評して、庶民というものをトルストイは知っていないと片づけたのも、トルストイにとっては致命的な痛さだったにちがいない。貴族のことを好んで書いたバルザックも誰か無名の貴族・・・
横光利一
「作家の生活」
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・・・しかし愛を感じない人の短所は、多くの場合致命的に見える。私はともすればそういう人の長所や苦しみや努力を見脱してしまう。そうしてその際、自欺の衣を剥ぎ偽善の面をもぐような、思い切った皮肉の矢を痛がる所へ射込む、ということに、知らず知らず興味を・・・
和辻哲郎
「転向」