・・・「はああ、あアに、そんなでもねえがなし、ちょくちょく、鎌首をつん出すでい、気をつけさっせるがよかんべでの。」「お爺さん、おい、お爺さん。」「あんだなし。」 と、谷へ返答だまを打込みながら、鼻から煙を吹上げる。「煙草銭ぐら・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ お袋は、それから、なお世間話を初める、その間々にも、僕をおだてる言葉を絶たないと同時に、自分の自慢話しがあり、金はたまらないが身に絹物をはなさないとか、作者の誰れ彼れはちょくちょく遊びに来るとか、商売がらでもあるが国府津を初め、日光、・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・先達からちょくちょく盗んだ炭の高こそ多くないが確的に人目を忍んで他の物を取ったのは今度が最初であるから一念其処へゆくと今までにない不安を覚えて来る。この不安の内には恐怖も羞恥も籠っていた。 眼前にまざまざと今日の事が浮んで来る、見下した・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・彼がスバーに一番ちょくちょく会ったのも斯うやって釣をする時でした。何をするにでも、プラタプは仲間のあるのが好きでした。釣をしている時には、口を利かない友達に越したものはありません。プラタプは、スバーが黙っているので、大事にしました。そして、・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・暖い部屋で、ポツポツ、ポツポツ針を運んで居るお節を見て、村から村へ使歩きをして居る爺の松の助がちょくちょく立ちよって、親切に慰めるつもりで、伝えふるした様な、評判だの噂さだのを話す事があった。 隣村のかなりの百姓で、甚さんと云う家がある・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 私の膝に抱かれたまま、私の髪の毛をいじる事が大変すきで胸の中に両手を突き入れる事などは亡くなる少し前からちょくちょくして居た。 小さい丸い手で髪をさすったり顔をいじったりした揚句首にその手をからめて、自分の小さい躰に抱きしめて呉れ・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・によって、結婚した両性の愛は、何も、ちょくちょく顔を見なければおられない筈のものでも無く、自分の愛情の表現に対して、必ず、同様な方法によって応答して貰わなければ寂寥に堪えないというようなものであるべきでないことは、熟知しているのです。これ等・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・林町の父は、この頃ちょくちょく旅行に出かけ用事なのですが、正月には御木本真珠を見に山田へ行った話、まだ申しませんでしたね。御木本さんは元ウドンやだったそうで、その頃使った臼が故郷の山にしめを張って飾ってある由。そして先頃赤しおで真珠をやられ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
劇場の廊下で知り合いになってからどう気が向いたものか肇はその時紹介して呉れた篤と一緒に度々千世子の処へ出掛けた。 千世子は斯うやってちょくちょく気まぐれに訪ねて来る青年に特別な注意は、はらわなか・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・ 鳩が来たんで御機嫌が取りよくなったって云って居たっけ。 ちょくちょく来る京子が笑いながらそんな事を云ったのも此の頃であった。 鳩を小屋に入れる頃から小雨が降り出して夜に入ってもやまなかった。 夕飯をすまして歌をうた・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
出典:青空文庫