・・・ 大衆課税、物価騰貴が大衆の双肩にかかっている。大衆の文化を圧する方策が、大衆の現実という名において大衆の頭上にふりかかって来ている。従って、大衆にわかる小説を書かなければならないという一見自明な『文学界』などの提案も、嘗てプロレタリア・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・作品についても同じ二様の心持が私の内に働いていた。陶器や書籍店の話が出て、私は Gaugh? のカタログを翌日送って上げた。 その他公開の席でちょいちょい会うきりで、その俥に乗って田端の坂を登って行った時以上私の友としての心持は進み・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・特別今年のメーデーは戦争のために起った物価騰貴、労働条件の悪化、いくら戦争をしても減らない三百万人の失業者の苦しみ、労働者農民を絞め殺す白テロに抗して、勇敢に闘われなければならぬ時です。たとえばこういうメーデーがわたしら働く婦人の生活にとっ・・・ 宮本百合子 「日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!」
・・・米価はひどい騰貴で商人は肥え、庶人は困窮し、しかも日光の陽明門が気魄の欠けた巧緻さで建造され、絵画でも探幽、山楽、光悦、宗達等の色彩絢爛なものがよろこばれている。よるべない下級武士の二六時にのしかかって来る生活のそういう矛盾が、宗房のような・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・町人に生まれ、折から興隆期にある町人文化の代表者として、西鶴は談林派の自在性、その芸術感想の日常性を懐疑なく駆使して、当時の世相万端、投機、分散、夜逃げ、金銭ずくの縁組みから月ぎめの妾の境遇に到るまでを、写実的な俳諧で風俗描写している。住吉・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・という大きい希望に今やもう一つの、更に困難で、投機的ないかにも当時らしい性質をもった大望が加えられた。それは、「自分も金持になって、貴族になりたい」という願望である。一八三〇年前後のパリがそれを中心として二六時中たぎり立っていた「成上り」の・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・戦争になれば景気がよくなるとブルジョアどもは吹き立てるが、失業者は現にふえる一方、賃銀は物価騰貴で三、四割減ったも同然です。農村では肥料を買う金さえない。 製糸女工さんの賃銀は日に十二銭です。ガスよけマスク、飛行機、爆弾、そういうものを・・・ 宮本百合子 「婦人読者よ通信員になれ」
・・・現実、戦争に夫や兄弟を奪われ、物価騰貴と失業に苦しめられているわれわれが手をつかねてはいられぬ。 満蒙事件がはじまって半年近くたつのだ、ほんとに婦人の立場から戦争反〔一九三二年二月〕・・・ 宮本百合子 「婦人と文学の話」
・・・ 例えば増税、物価騰貴に対して大衆は、先ず否定的な感情をもたざるを得ず、その表現は自然否定的な形から入って行く。文学では近頃日本的なものが云々されているが、私たちが日本人であり、しかも最も日本語というものの内容表現と密接に結ばれている日・・・ 宮本百合子 「プロ文学の中間報告」
・・・トロツキーのこの著作の翻訳がいかなる傾向の日本の現状によってかく大々的に扱われるのであるかということを、歴史的展望に立って鋭く洞察しなければ、新聞代まで高くなったほど紙の騰貴した折柄、悪意を満載した紙屑がしかく普及されることの矛盾が私たちに・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫