・・・アハハハと笑って、陽気に怯かす……その、その辺を女が通ると、ひとりでに押孕む……」「馬鹿あこけ、あいつ等。」 と額にびくびくと皺を刻み、痩腕を突張って、爺は、彫刻のように堅くなったが、「あッはッはッ。」 唐突に笑出した。・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・山男に生捕られて、ついにその児を孕むものあり、昏迷して里に出でずと云う。かくのごときは根子立の姉のみ。その面赤しといえども、その力大なりといえども、山男にて手を加えんとせんか、女が江戸児なら撲倒す、……御一笑あれ、国男の君。 物語の著者・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・という素晴らしい子を孕む。しかし必ず死ぬと決った手術だ。 やはり宮枝は慄く、男はみな殺人魔。柔道を習いに宮枝は通った。社交ダンスよりも一石二鳥。初段、黒帯をしめ、もう殺される心配のない夜の道をガニ股で歩き、誰か手ごめにしてくれないかしら・・・ 織田作之助 「好奇心」
・・・しかしチャムで「ハラム」は閉鎖の義であるからその方かもしれぬ。比島 「ピ」は小の義、「シュマ」は石。サ島 「サ」は乾、乾出せる岩礁か。万々 「メム」は沼またラグーン。物部 「ポロペッ」大河。韮生 「ニナラ」高原。また「ニ・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・選択が理想を孕む。次にこの理想を実現して意識が特殊なる連続的方向を取る。その結果として意識が分化する、明暸になる、統一せられる。一定の関係を統一して時間に客観的存在を与える。一定の関係を統一して空間に客観的存在を与える。時間、空間を有意義な・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫