・・・しずかなラクシャン第三子がラクシャンの第四子に云う「空が大へん軽くなったね、あしたの朝はきっと晴れるよ。」「ええ今夜は鷹が出ませんね」兄は笑って弟を試す。「さっきの野火で鷹の子供が焼けたのかな。」弟は賢く答えた。・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・しかしどうも晴れると咽喉が乾いていけません。それに昨夜は少し高く歌い過ぎましてな。ご免下さい。」と云いながら大烏は泉に頭をつき込みました。「どうか構わないで沢山呑んで下さい。」とポウセ童子が云いました。 大烏は息もつかずに三分ばかり・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・東京で桜が散った後は、もう一雨で初夏の香が街頭に満つが、ここでは、こうやって今日一日降りくらす、明日晴れる、翌日は又雨で、次の日晴れる――ああ、何か一種異様の愛着をもって自然が推移するのだ。それ故、一月近くいて見ると、ここを去るのが変にのこ・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・ってうれしさにまぎれて居たが段々日影も斜になって来るしあう人もまれになると淋しさが身にしみて高く話して居た声もいつかしめってはばかる人もないのに御互に身をよせ合って何か話し合っては※ 五月雨が晴れると急に夏めいてようやく北にあるこの・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫