・・・貴所といえども既に細川の希望が達したと決定れば細川の為めに喜こばれるであろう。又梅子嬢の為にも、喜ばれるであろう。 そして拙者の見たところでは梅子嬢もまた細川に嫁することを喜こんでいるようである。 これが良縁でなくてどうしよう。・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・この音が伝わって行く際にエネルギーが搬ばれると考えると、少しも矛盾なく諸般の現象を説明する事が出来る。光は熱を生じ化学作用を起しまた圧力を及ぼして機械的の仕事をする。音も鼓膜を動かして仕事をし、また熱にも変ずる。しかるに此のごとく搬ばれ彼の・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・「だって君、これは何という木かしらんが、栗の木じゃないぜ、途方もないとこに栗の実が落ちてちゃ、ばれるよ。」 も一人が落ちついた声で答えました。「ふん、そんなことは心配ないよ、はじめから僕は気がついてるんだ。そんなことまで何のかん・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・いつよばれるかを知れないような連中なんだね、ああやっているの。と、その様子を眺めながら連れの老齢の男のひとが静かな口調でいった。 私たち女の心は、こういう街頭の情景にふれても、簡単にただ見ては過ぎかねる動きを感じている。新聞は毎日毎日、・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・亭主がかえって来たので東京に来たが男から手紙が来てバレル、女身持ち。子を産む。その子と女、フイリッポフのところへあずける。女、男によび出されては子供をフイリッポフにあずけて出てゆく。フイリッポフ貧しい中から子供に粉ミルクをかってのませた。・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫