・・・万葉集の巻の三には大津皇子が死を賜わって磐余の池にて自害されたとき、妃山辺の皇女が流涕悲泣して直ちに跡を追い、入水して殉死された有名な事蹟がのっている。また花山法皇は御年十八歳のとき最愛の女御弘徽殿の死にあわれ、青春失恋の深き傷みより翌年出・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ 而も赳々たる幾万の豼貅、一個の進んでドレフューの為めに、其寃を鳴し以って再審を促す者あらざりき。皆曰く。寧ろ一人の無辜を殺すも陸軍の醜辱を掩蔽するに如かずと。而してエミール・ゾーラは蹶然として起てり。彼が火の如き花の如き大文字は、淋漓・・・ 幸徳秋水 「ドレフュー大疑獄とエミール・ゾーラ」
・・・徒ラニ夢ニ悲泣スル勿レ。努メテ厳粛ナル五十枚ヲ完成サレヨ。金五百円ハヤガテ君ガモノタルベシトゾ。八拾円ニテ、マント新調、二百円ニテ衣服ト袴ト白足袋ト一揃イ御新調ノ由、二百八拾円ノ豪華版ノ御慶客。早朝、門ニ立チテオ待チ申シテイマス。太宰治様。・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・場右、場中、場左のごとき皆打者の打ちたる飛球を攫みまたはその球を遮り止めて第一基等に向いこれを投ぐるを役目とす。しかれども球戯は死物にあらず防者にありてはただ敵を除外ならしむるを唯一の目的とするをもってこれがためには各人皆臨機応変の処置を取・・・ 正岡子規 「ベースボール」
出典:青空文庫