・・・ けれども律儀な老訓導は無口な私を聴き上手だと見たのか、なおポソポソと話を続けて、「……ここだけの話ですが、恥を申せばかくいう私も闇屋の真似事をやろうと思ったんでがして、京都の堀川で金巾……宝籤の副賞に呉れるあの金巾でがすよ、あれを一ヤ・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 活溌な伝令が、出かける前、命令を復唱した、小気味のよい声を隊長は思い出していた。「うむ、そうだ。」彼は肯いて見せたのだった。「それを一人も残らず殲滅してしまった。我軍の戦術もよかったし、将卒も勇敢に奮闘した。これで西伯利亜のパルチ・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・あとの言葉を内心ひそかにあれこれと組み直し、やっと整理して、さいごにそれをもう一度、そっと口の中で復誦してみて、それから言い出した。「芸術の制作衝動と、日常の生活意慾とを、完全に一致させてすすむということは、なかなか稀なことだと思われますが・・・ 太宰治 「花燭」
・・・点呼のとき青年団員が復唱するような勇壮な調子で入営について書いてあり、又ほのかな思い出を家にのこしてとても優しく書いてあったり。姉上の御全快と御幸福をおいのりいたします。そして最後に「これにてペンにブレーキをかけます」この純真な若者は、次兄・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
出典:青空文庫