・・・この疑問の解答が一般に知られていないということが、学位をめぐるあらゆる不都合な事件の発生の胚芽となり、従っては一国の学術の健全な発達を妨害する一つの素因ともなり得るかと思われる。それ故にこの疑問を解くことは我国の学問の正常な発達のために緊要・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・これに依って先覚諸氏の示教に接する機を得ば実に望外の幸いなり。 一 ある自然現象の科学的予報と云えば、その現象を限定すべき原因条件を知りて、該現象の起ると否とを定め、またその起り方を推測する事なり。これは如何・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 科学を奨励する目的で作られた機関が、自己の意志とは反対に、一生懸命科学の進歩を妨害しているという悲しむべき結果になる事もあるようである。これがいちばん困る。 科学も草木ものびのびと自由に生長させる方がよいようである。少しくらい雑草・・・ 寺田寅彦 「スパーク」
・・・この殿堂への一つの細道、その扉を開くべき一つの鍵の、おぼろげな、しかも拙な言葉で表現された暗示としてのみ、この一編の正当な存在の意義を認容される事ができれば著者としてむしろ望外の幸いである。 自分はできるだけ根拠なき臆断と推理を無視する・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・るで考えないで、自分さえ切符を買ってしまえばそれでいいという紳士淑女達のことであるから、切符売子と色々押し問答をした上に、必ず大きな札を出しておつりを勘定させる、その上に押し合いへし合いお互いに運動を妨害するから、どうしても一人宛平均三十秒・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・ 十五 科学を奨励する目的で、われわれが誠心誠意でやっている事が、事実上の結果において、かえって正しく科学の進歩を妨害しているような悲しむべき場合が、全くないとは言われない。これは、注意していなければならない・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・として、あるいはまたアカデミックな精白米の滋味に食い飽きて一種のヴィタミン欠乏症にかかる恐れのあるときの一さじの米ぬかぐらいのつもりでこの一編の所説の中に暗示された何物かを味わってもらわれれば、筆者の望外のしあわせである。・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・三吉はわざとマッチを借りたりして妨害するが、深水の演説口調はなかなかやまない。そのうち、こんどは急に声の調子まで変えていった。「――しかし、つまるところはですナ、ご両人でよろしくやってもらうよりないんだよ。わしはその、月下氷人でネ、これ・・・ 徳永直 「白い道」
・・・そこで今度は、スキャップ政策をとったが、それも強固な争議団の妨碍のために、予測程の成功ではなかった。トラックの中に、荷物の間に五六人のスキャップを積み込んで、会社間近まで来たとき、トラックの運転手と変装していた利平が、ひどくやられたのもこの・・・ 徳永直 「眼」
・・・そして聊たりとも荒涼寂寞の思を味い得たならば望外の幸であろうとなした。 予め期するところは既に斯くの如くであった。これに対して失意の憾みの生ずべき筈はない。コールタを流したような真黒な溝の水に沿い、外囲いの間の小径に進入ると、さすがに若・・・ 永井荷風 「百花園」
出典:青空文庫