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・・・だけ黒く浮いて出ると、お経ではない、あの何とか、梵字とかのようで、卵塔場の新墓に灯れていそうに見えるから、だと解く。――この、お町の形象学は、どうも三世相の鼇頭にありそうで、承服しにくい。 それを、しかも松の枝に引掛けて、――名古屋の客・・・
泉鏡花
「古狢」
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・・・この向島名物の一つに数えられた大伽藍が松雲和尚の刻んだ捻華微笑の本尊や鉄牛血書の経巻やその他の寺宝と共に尽く灰となってしまったが、この門前の椿岳旧棲の梵雲庵もまた劫火に亡び玄関の正面の梵字の円い額も左右の柱の「能発一念喜愛心」及び「不断煩悩・・・
内田魯庵
「淡島椿岳」