・・・ 次の春理助は北海道の牧場へ行ってしまいました。そして見るとあすこのきのこはほかに誰かに理助が教えて行ったかも知れませんがまあ私のものだったのです。私はそれを兄にもはなしませんでした。今年こそ白いのをうんととって来て手柄を立ててやろうと・・・ 宮沢賢治 「谷」
・・・金剛石は硬く滑石は軟らかである。牧場は緑に海は青い。その牧場にはうるわしき牛佇立し羊群馳ける。その海には青く装える鰯も泳ぎ大なる鯨も浮ぶ。いみじくも造られたる天地よ、自然よ。どうです諸君ご異議がありますか。」 式場はしいんとして返事があ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ふとよんだものに不思議にひきつけられ、犢がうまい草にひかれてひろい牧場の果から果へ歩くように、段々そういう種類の本をさがして読みすすんで、あるとき、ほんとに自分は文学が好きなのだった、と自分に発見する。こういう過程は、私たちのすべてが経験し・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・青葉の繁った木立ちのこっち側には集団牧場がみえる。楽し気な牛、馬、羊、年とった集団農場員が若いもの、孫のようなピオニェール等にかこまれて、働き、ラジオをきき、字をならっている。 鉄橋がある。遠く水力電気発電所がみえる。穀物、家畜を積んだ・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・ 山々はみどりのビロードを張りつめた様に牧場には口に云えないほどの花が咲き出して川の水も池の面も元気の好い太陽にくすぐられて微笑んで居る様に道にころがって居る小石にさえ美しさが輝き出してまるで小鳥の様に仙二はうすい着物に草履をはいてはそ・・・ 宮本百合子 「グースベリーの熟れる頃」
・・・ 屋根の瓦の間に――干た田に又は牧場にひろびろと咲き満ちて居る。 いかにも可愛らしいなりをして居る。 私はペンペン草をすいて居る。 第一そのわだかまりのない気軽な名が気に入って居るし次には白とみどりのすっきりしたお茶漬をサラ・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ 寺の方がすこし高みになっていて、牛のいる牧場はかなり下に見おろせた。今思えばいかにも市中の牧場らしく、ただ平地に柵をめぐらされているだけのその牧場だったが、そこに、いつも四五頭の乳牛が出ていた。白と飴色のまだら、白黒のまだら。ちょっと・・・ 宮本百合子 「道灌山」
・・・私は毎日朝飯をたべると隣の娘と奥の牧場に行って今年生れた小羊を相手にリンゴの木かげで遊ぶんです。となりの娘はローズって名の通りの美くしい娘であの白い細いうでで私の首をかかえてじっと私のかおを見ながらいつも美くしい話をして呉れます。お昼になる・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫