・・・二女は麻疹も出たらしかった。彼女は八つになるのだが、私はその時分も冬の寒空を当もなく都会を彷徨していた時代だったが、発表する当のない「雪おんな」という短篇を書いた時ちょうど郷里で彼女が生れたので、私は雪子と名をつけてやった娘だった。私にはず・・・ 葛西善蔵 「父の出郷」
・・・ジンマシンなら、痒い筈だが。まさか、ハシカじゃなかろう。」 私は、あわれに笑いました。着物を着直しながら、「糠に、かぶれたのじゃないかしら。私、銭湯へ行くたんびに、胸や頸を、とてもきつく、きゅっきゅっこすったから。」 それかも知・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・ ブルッ、と手で顔を撫でると、全で凍傷の薬でも塗ったように、マシン油がベタベタ顔にくっついた。そのマシン油たるや、充分に運転しているジャックハムマーの、蝶バルブや、外部の鉄錆を溶け込ませているのであったから、それは全く、雪と墨と程のよい・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
出典:青空文庫