・・・一篇によって、作者はそれまで自分を生かして来た環境の、プラスもマイナスもくいつくした。もっと自然に、もっと伸びやかな人間らしさを求めるためには、自身の生きる社会環境を変え、人生と文学との理解においても、一つの歴史的な飛躍をとげなければならな・・・ 宮本百合子 「あとがき(『伸子』第一部)」
・・・そうだった一つの力づよい才能と生活力とが、おびただしい内と外との困難にからまれながらも、階級的成長と人民の運命の打開の可能の上に置きなおされたのは、やはり、人民の歴史そのものの前進によってもたらされたプラスの実例であると思う。〔一九四九・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・学校教育の方式の中に当然入りこんできているキャナライゼーションとマス・コムュニケーションのプラスとマイナスの面を研究する必要があります。アメリカの文化がより幸福なものとなるためにはやっぱりこの点を検討してみなければならないでしょう。〔一九四・・・ 宮本百合子 「アメリカ文化の問題」
・・・という自責的なひとことのなかに、女として作家として積極であった多くのプラスをのみこみながら。戦争とファシズムの力とで人間はどんなに非人道的に扱われて来たかということについて、そのような権力への抗議として少くとも「風知草」の世界が語り得ている・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・仮に二つのものを一つに結び合わして考えたい心持のひとは、二つに分けられたままにただそれを並べてくっつけて云って、結果としては科学知識プラス宗教或は科学知識にプラス道義とかいう形に止った。 人間精神の溌剌さは、現実のうちではそういう不器用・・・ 宮本百合子 「科学の精神を」
・・・で、あなたは、あなたをして書かしめている境遇のプラスな面と、あなたをして書くことを得ざらしめているマイナスの面、限界とを、驚くべき率直さでおのずから示されているのですから。そして、賢明なあなたは、そういう意味であの作品が含有している作家史的・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・音楽家の精神内容には、舞台に立つ者として俳優などと共通の古い伝統の感情のほかに、何か独特なものがある。プラスであると共にマイナスなもの、彼を一応音楽家たらしめているが大音楽家たらしめぬ、というような矛盾がふくまれていることを感じます。例えば・・・ 宮本百合子 「期待と切望」
・・・まして、大局ではマイナスの作用をしつつ、目前ともかくプラスである協力者をもたず、或は良人と自身との画境をはっきり弁えて自力の成熟をしようと心がけている若い少数の婦人画家たちは、現在の常識ではどっちを向いても損であり苦しいということになる。・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・然し、上林へ行ったことは、あれだけ外気の中で山を歩いたことは実にきき目があり、体にも気分にも大変のプラスでした。ちがった場所での生活の観察もよく、私は「上林からの手紙」というのと「山漆」というのと二つ随筆をかき、猶書きたい。これは小説を書く・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・私は私にとって一番そのプラス・マイナスについて遠慮なく語れる自分の四年間の文学実験について、そこにあらわれた問題を内と外との関係から見て行こうとする。 二「伸子」が書かれたのは一九二四年―六年のことであった・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
出典:青空文庫