・・・かの足音の戸の近くしばらくとまる時、垂れたる幕を二つに裂いて、髪多く丈高き一人の男があらわれた。モードレッドである。 モードレッドは会釈もなく室の正面までつかつかと進んで、王の立てる壇の下にとどまる。続いて入るはアグラヴェン、逞ましき腕・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・女性の風俗、モードの問題ひとつをまじめにとりあげても、こんにちではそこに、日本の流行が植民地的な文化趣味に従属させられてはならないという課題が立ちあらわれる。同時に、日本の独自性というものが一般の関心をひいている現在を利用してふたたび、超国・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・雑誌のモードは、山に海にと、闊達自由な服装の色どりをしめし、野外の風にふかれる肌の手入れを指導しているけれども、サンマー・タイムの四時から五時、ジープのかけすぎる交叉点を、信号につれて雑色の河のように家路に向って流れる無数の老若男女勤め人た・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ 衣類または服装と婦人との社会的な関係をあるがままに肯定した上で、これまで整理保存の方法、縫い方、廃物利用、モードの選びについてなどが話題とされて来ている。けれども考えてみれば女性が縫物をすることになったのは一体人間の社会の歴史の中でい・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・現在でも政府の言論官僚統制として批判されている放送事業法案が委員制をもっているように、委員会のモードはすたれていない。ところがこんど制定される行政施行法によれば、すべて委員会と名のつくものは政府の統轄のもとにおかれなければならないことになる・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・と、鳴る太鼓の音を空にきき流しつつ、軍国調モードを、どんなにシークにステープルファイバアからつくり出そうかと思案しているのが、今日の若い女のその日ぐらしの姿であるとしたら、若い婦人たちの誰が、その愚劣な一人として自分を描かれることに承知しよ・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・いま、どういう種類の娘さんたちが、そういうモードのパンティーをつけるのかしらないが、ふたつにわかれたもものしまりにヒラヒラのついた形が、こっち向きに干してある。その絵を見て、わたしは何だか自然にうけとれなかった。たとえ一人いる室でも、女は、・・・ 宮本百合子 「さしえ」
・・・変転する社会の相貌に応じて、文学の分野の謂わばモードも転々したのであるが、今日ではそのような文学の形をとった上波が、つまりは文学というより寧ろ文学によって扱われるべき世相の一つの姿であって、文学とはその様な人間関係の、心理の、何か一皮むいた・・・ 宮本百合子 「生産文学の問題」
・・・『スタイル』という婦人のモード雑誌の新年号にアンケートがある。ラヴ・レターをお書きになったことがお有りですか。すましていてすべってころんだときは、どういうポーズと表現をしますか。あなたのお顔の色々の道具の中で何が一番お好きですか。云々という・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・ この節では国際結婚という言葉も日用語に近くなった。モードについて書かれている記事の中に、ロマネスクは目下モードにおける国際的傾向であると書かれているとき、むずかしい言葉でかいてあるわ、と批難する娘さんたちはいない。日本の娘のおどろくよ・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
出典:青空文庫