・・・ バルザックは嘘偽も人世のリアリティーの一つであることを正視する勇気をもっていた。 ゴンクールが自然主義作家であったが、大なるリアリスト作家でなかった所以。 そして、フランスの知識人は、彼等の人生に正当なおき場所で政治をうけとり・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
・・・アナトール・フランスの言葉が引用されたり、愛とか、よき生活への理想とかが文句として存在してはいるけれども、なまのままの現実生活と、そこから創造されるものとしての芸術としてのリアリティーとの関係では、作者は実生活の運用のために芸術的表現をも使・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・けれども、武田氏の評の終りの部分は何かそこに現代日本の文学、武田氏から考えられている小説の問題が現れていて、今日の生活感情と文学のリアリティーの問題として感興を動かされるものがあった。 文学として見た場合、日本の小説であろうと西洋の小説・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・で学ぶべきは、仰云るように、作者の根気、努力、であるが、こちらの作者のスケールと現実洞察の、彼なりの鋭さ、リアリティーは実に光彩陸離たるものがあります。若い時代が、その技術をくみとりつつ、内容に於て新たな世界を芸術化し得るというよろこび、我・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 五年来、現代文学は、社会性の拡大、リアリティーのより強壮で立体的な把握と再現とを可能にする方法の発見を課題として来た。そのための試みという名目のもとには、少からぬ寛容が示されて来た。しかし文学現象は、その寛容の谷間を、戦後経済の濁流と・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・勿論、直接の感覚としては面白さを求めるとも見えるが、面白さの要素は心理的に綜合的なものであり、探偵小説、怪奇小説の類でさえ書かれている世界のリアリティーは、面白くない面白いを決定する重大な契機となっている。 面白さが読者大衆から要求され・・・ 宮本百合子 「今日の文学に求められているヒューマニズム」
・・・普通の言葉でこれを云うと、横光氏の生活、思想態度は頭の中でだけ描かれ組立てられていて、現実の矛盾にとり組む芸術的リアリティーをもっていないから未しであるという意味なのである。 かかる有様で、プロレタリア文学運動の退潮後、文学論議は混迷し・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・どんな幻想的創作でさえも、それが幻想としてありうるためには幻想のリアリティーを欠くことは不可能である。人間というものが本格的にリアリストであり、芸術の根蔕がリアリズムであるからには、作家として現実を真にその活き動く関係のままに把握しうる眼と・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・そこでの現実の見聞をもって作品の細部を埋め、そのことであるリアリティーを創り出しつつ、こちらから携帯して行った諸問題を背負わせるにふさわしい人物を兵の中に捉え、全く観念の側から人間を動かして、結論的にはそれらの観念上の諸問題が人間の動物的な・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・その他は芭蕉と全然違ったリアリティーをもっている。武士出身の芭蕉が芸術へ精進した気がまえ、支那伝来の文化をぬけてじかに日本の生活が訴えてくる新しい感性の世界を求めた芭蕉の追求の強さ、芭蕉はある時期禅の言葉がどっさり入っているような句も作った・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
出典:青空文庫