・・・在来のこの種の歌の中で、身の不運を嘆いたり、生のたよりなさを訴たりする者があっても、それは単純なリリシズムの繰り返しにしか過ぎなかった。そしてそれによって、その時代をうかがう事が出来ても、それらの詩には、それ以外の目的を見出すことが出来ない・・・ 小川未明 「詩の精神は移動す」
・・・彼等の文学は、ただ俳句的リアリズムと短歌的なリリシズムに支えられ、文化主義の知性に彩られて、いちはやく造型美術的完成の境地に逃げ込もうとする文学である。そして、彼等はただ老境に憧れ、年輪的な人間完成、いや、渋くさびた老枯を目標に生活し、そし・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・僕は太宰治に、ヴァイオリンのようなせつなさを感ずるのは、そのリリシズムに於てであった。太宰治の本質はそこにあるのだと、僕は思っている。それが間違いであるといわれても、僕はなかなか、この考えを捨てまいと思っている。リリシズムの野を出でて、いば・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・――僕はあなたの小説を読んだことはないが、リリシズムと、ウイットと、ユウモアと、エピグラムと、ポオズと、そんなものを除き去ったら、跡になんにも残らぬような駄洒落小説をお書きになっているような気がするのです。僕はあなたに精神を感ぜずに世間を感・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・すがすがしい一種の革命的リリシズムがある。「風知草」はその描線にいかようの省略があろうとも人間云いならわした愛という言葉、よろこびという言葉、またその歎きに、どのように生新な歴史の質量がうらづけられてゆくものかということについて省略していな・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・のような静的なリリシズムに曲折するのであろう。この愛についても例外的な境地に生きる女詩人が、今既にある峯に立っているその境地のなかで、そのような想念と情緒とをどのように展開し、すこやかに渾然と成熟させてゆくか。愛という字をつかわずに、人々の・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・のようなアメリカ文学としてみれば珍しいリリシズムで貫かれている作品にしろ、フランスの文学にある自然への抒情性とは全くちがったむーっとして遠くひろく際限のない地平線にとりまかれて暮す人間の感覚で書かれている。決して決して日本の季感に通じるリリ・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
出典:青空文庫