・・・然るに今その敵に敵するは、無益なり、無謀なり、国家の損亡なりとて、専ら平和無事に誘導したるその士人を率いて、一朝敵国外患の至るに当り、能くその士気を振うて極端の苦辛に堪えしむるの術あるべきや。内に瘠我慢なきものは外に対してもまた然らざるを得・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・ 明日の口のことを心配して居た人が一朝境遇が変ると、すべての心配は試験だけになった。面白いもんですなあ、人生は……」 山内氏このように話す、妻君傍で「又あんな話、苅田さん御退屈でしょう」と写真帖など出し、家鴨の居るの 羊の居るの 子・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ 一朝、野蛮人の襲撃に会えば、彼等は、只、彼等の団結によってのみその敵を防がなければならない。一都市の政治的、商業的問題を本国と取定める場合には、誰か、彼等の信任する一人を、あらゆる舌、あらゆる心の代表として選出しなければならない。共和・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・「私達はいつの間にかただの女ではなく『銃後の女性』になってしまっていた。一朝事があれば私も『銃後の女性』という名にぴったりした行動は取れなくても、避難の時までものを見、感じ、書く、という形で銃後を守る心持はあるが」と、後半では物質に不自由が・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
・・・ 西行法師はこの点に一種の解決を与えた男である。一朝浮世のはかなさを悟っては直ちに現世の覊絆を絶ち物質界を超越して山を行き河を渉る。飄然として岫をいずる白雲のごとく東に漂い西に泊す。自然の美に酔いては宇宙に磅たる悲哀を感得し、自然の寂寥・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫