・・・ この兄貴らしい心もちは、勿論一部は菊池の学殖が然しめる所にも相違ない。彼のカルテュアは多方面で、しかもそれ/″\に理解が行き届いている。が、菊池が兄貴らしい心もちを起させるのは、主として彼の人間の出来上っている結果だろうと思う。ではそ・・・ 芥川竜之介 「兄貴のような心持」
・・・またすべての青年の権利たる教育がその一部分――富有なる父兄をもった一部分だけの特権となり、さらにそれが無法なる試験制度のためにさらにまた約三分の一だけに限られている事実や、国民の最大多数の食事を制限している高率の租税の費途なども目撃している・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・別館、あるいは新築と称して、湯宿一軒に西洋づくりの一部は、なくてはならないようにしている盛場でありながら。「お邪魔をしました。」「よう、おいで。」 また、おかしな事がある。……くどいと不可い。道具だてはしないが、硝子戸を引きめぐ・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・界大博覧会などのある時には、日本の古代美術品と云えば真先に茶器が持出される、巴理博覧会シカゴ博覧会にも皆茶室まで出品されて居る、其外内地で何か美術に関する展覧会などがあれば、某公某伯の蔵品必ず茶器が其一部を占めている位で、東洋の美術国という・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・僕の宿っているのは芸者屋の隣りだとは通知してある上に、取り残して来た原稿料の一部を僕がたびたび取り寄せるので、何か無駄づかいをしていると感づいたらしい――もっとも、僕がそんなことをしたのはこのたびばかりではないから、旅行ごとに妻はその心配を・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ この椿岳国の第一の名産たる画はどんな作である乎、先年の椿岳展覧会は一部の好事家間に計画されたので、平生相知る間を集めて展観したのだから、この展覧会で椿岳の画の全部を知る事は出来なかったが、ほぼその画風を窺う事は出来た。 椿岳の画は・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・あたかもエジプトより遁れ出でしイスラエルの民が一部の失敗のゆえをもってモーセを責めたと同然でありました。しかし神はモーセの祈願を聴きたまいしがごとくにダルガスの心の叫びをも聴きたまいました。黙示は今度は彼に臨まずして彼の子に臨みました、彼の・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・夏になると、いつも障子が開けてありましたから、外を歩く人は、この室の一部を見上げることもできました。 ちょうど隣の家の二階には、中学校へ、教えに出る博物の教師が借りていました。博物の教師は、よく円形な眼鏡をかけて、顔を出してこちらをのぞ・・・ 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・話の序でだから、この一部をそこへ挿むことにしよう。 ――もともと出鱈目と駄法螺をもって、信条としている彼の言ゆえ、信ずるに足りないが、その言うところによれば、彼の祖父は代々鎗一筋の家柄で、備前岡山の城主水野侯に仕えていた。 彼の五代・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・以前見た夢の一部が本当になったのである。 彼は往来で医者の看板に気をつける自分を見出すようになった。新聞の広告をなにげなく読む自分を見出すようになった。それはこれまでの彼が一度も意識してした事のないことであった。美しいものを見る、そして・・・ 梶井基次郎 「ある心の風景」
出典:青空文庫