・・・もっとも風中と保吉とは下戸、如丹は名代の酒豪だったから、三人はふだんと変らなかった。ただ露柴はどうかすると、足もとも少々あぶなかった。我々は露柴を中にしながら、腥い月明りの吹かれる通りを、日本橋の方へ歩いて行った。 露柴は生っ粋の江戸っ・・・ 芥川竜之介 「魚河岸」
・・・と茶も飲まないで直ぐ飛出し、「大勝利だ、今度こそロスの息の根を留めた、下戸もシャンパンを祝うべしだネ!」と周章た格子を排けて、待たせて置いた車に飛乗りざま、「急げ、急げ!」 こんな周章ただしい忙がしい面会は前後に二度となかった。「ロスの・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・お職女郎の室は無論であるが、顔の古い幅の利く女郎の室には、四五人ずつ仲のよい同士が集ッて、下戸上戸飲んだり食ッたりしている。 小万はお職ではあり、顔も古ければ幅も利く。内所の遣い物に持寄りの台の数々、十畳の上の間から六畳の次の間までほと・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫