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・・・又、いわゆる不義とされた男女関係の悲劇も多く現われた。近松は、この世の義理に苦しみ、社会の制裁に怯える男女の歎きと愛着とを、七五調の極めて情緒的な、感性的な文章で愬えて、当時のあらゆる人の心を魅した。社会の身分の差別はどうあろうとも、偶然の・・・
宮本百合子
「私たちの建設」
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・・・しかし不可抗の力の強さをきわ立たしめるためには、あらゆる同情を不義の恋に落ちて行く男女の上に注ぐ事をも辞しなかった。『門』はその解決である。男女の相愛はこれほど深まることができる。しかし押し倒された正義は執拗に愛する者の胸を噛んでいる。完全・・・
和辻哲郎
「夏目先生の追憶」