・・・ 明治二十七八年日清戦争の最中に、予備役で召集されて名古屋の留守師団に勤めていた父をたずねて遊びに行ったとき、始めて紡績会社の工場というものの見学をして非常に驚いたものである。祖母が糸車で一生涯かかって紡ぎ得たであろうと思う糸の量が数え・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・ 以上の事実を予備知識として、この芭蕉の句を味わってみるとなると「おりおりに」という初五文字がひどく強く頭に響いて来るような気がする。そして伊吹の見える特別な日が、事によると北西風の吹かないわりにあたたかく穏やかな日にでも相当するので、・・・ 寺田寅彦 「伊吹山の句について」
・・・しかし大多数の読者がこの点について一通りの予備知識を備えているものと仮定してもおそらくたいした不都合はあるまいと思う。 ついでながら、自分のような門外漢がこの講座のこの特殊項目に筆を染めるという僣越をあえてするに至った因縁について一言し・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・のシーンに関する予備知識を持たないのであるから、従って「その次」のシーンに対する好奇心も起こらない。結局トーキーの中のただ一片のカットを見物したと同じに、興味はただそれだけで泡のように消えてしまうのである。またある四つ辻で人々がけんかをして・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・今回は紙数の制限もあるので以上の予備的概論にとどめ、ただ多少の見込みのありそうな一つの道を暗示するだけの意味でしるしたに過ぎない。従って意を尽くさない点のはなはだ多いのを遺憾とする。ともかくもかかる研究の対象としては火山の名が最も適当なもの・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・ そのうちに僕は中学へはいったが、途中でよしてしまって、予備門へはいる準備のため駿河台にそのころあった成立学舎へはいった。そのころの友人にはだいぶえらくなったやつがある。それから予備門へはいった。山田美妙斎とは同級だったが、格別心やすう・・・ 夏目漱石 「僕の昔」
・・・この学校が予備門といって丁度一ツ橋外にありました。今の高等商業のある界隈一面がこの学校兼大学であった。明治十七年、貴方がたがまだ生れない先、私は其所へ這入ったのです。それから――実は落第しております。落第して愚図愚図している内にこの学校が出・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・我が慶応義塾において初学を導くにもっぱら物理学をもってして、あたかも諸課の予備となすも、けだしこれがためなり。なお、その教則の事については他日陳述するところのものあるべし。 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・東京大学へ伝わりしと聞けどいかがや。また同時に工部大学校、駒場農学校へも伝わりたりと覚ゆ。東京大学予備門は後の第一高等中学校にして今の第一高等学校なり。明治十八、九年来の記憶に拠れば予備門または高等中学は時々工部大学、駒場農学と仕合いたるこ・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・そして第十八へきかい予備面が痛いと。なるほど、ふんふん、いやわかりました。どうもこの病気は恐いですよ。それにお前さんのからだは大地の底に居たときから慢性りょくでい病にかかって大分軟化してますからね、どうも恢復の見込がありません。」病人は・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
出典:青空文庫