・・・しかし浴場に附属した礼拝堂と図書館と画廊と音楽堂と運動場の建築が必要であると云って、それで三人でこの仮想的浴場のプランを画いてみたりした。しかしその費用の出処については誰にも何の目あてもないので、おしまいにはとうとう三人で笑い出してしまった・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・太十は従来農家の附属物たる馬ととの外には動物は嫌いであった。猫も二三度飼ったけれど皆酷く窶れて鳴声も出せないように成って死んだ。猫がないので鼠は多かった。竹藪をかぶった太十の家は内も一杯煤だらけで昼間も闇い程である。天井がないので真黒な太い・・・ 長塚節 「太十と其犬」
・・・四角はどこまでもこの家の附属物かと思う。カーライルの顔は決して四角ではなかった。彼はむしろ懸崖の中途が陥落して草原の上に伏しかかったような容貌であった。細君は上出来の辣韮のように見受けらるる。今余の案内をしている婆さんはあんぱんのごとく丸る・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・ 一口にいえば、文芸家の仕事の本体即ち essence は人間であって、他のものは附属品装飾品である。 この見地より世の中を見わたせば面白いものです。こういうのは私一人かも知れませんが、世の中は自分を中心としなければいけない。尤も私・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・その首長を国君といい、附属の人を官吏という。国の安全を保ち、他の軽侮を防ぐためには、欠くべからざるものなり。 およそ世の中に仕事の種類多しといえども、国の政事を取扱うほど難きものはなし。骨折る者はその報を取るべき天の道なれば、仕事の難き・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・ここはこの向うの家の地面なのですが家の人たちが一向かまわないで子供らの集まるままにして置くものですから、まるで学校の附属の運動場のようになってしまいましたが実はそうではありません。」「それは不思議な方ですね、一体どう云うわけでしょう。」・・・ 宮沢賢治 「虔十公園林」
・・・されども余の素願は、固より彼女の内部に潜める才能を認め、願くば其外部の附属物を除かんとするにありしが故に、自今と雖も若し嘗て余の行為にして彼女をいさゝかなりとも苦しましめしものありとせば、余は甘んじて是を除去するに勉めざる可からず』と。是れ・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・新たに増税されるものの種目に、写真機及その附属品、原料というのがある。フィルム、原像液、引延機、みんな其々に税がかかるのであろう。写真機の大衆化は、その生産過程の特殊性から或る方面の支持によったのであるそうだが、ずうっとひろげておいて今度は・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・ 一月半ばかり前、日本女がモスクワ第一大学附属病院へ入って来て間もない或る日だった。風呂に入れといって、背の高くない、身持ちの、ほっぺたが赤い一人の保姆が車輪つき椅子をころがしこんで来た。日本女は体を動かすと同時に肝臓の痛みからボロボロ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 従来、女と云えば誰人かの娘、妻、姉妹、という附属的地位にあった。女性が刑務所を出てからどうすると云う問題も、彼女等に帰るところ、かえってから養って貰うところがあったので表面に出なかったのだろう。「仮令どんなによくしても監獄はよくならな・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
出典:青空文庫