・・・この道徳的意識に根ざした、リアリスティックな小説や戯曲、――現代は其処に、恐らくは其処にのみ、彼等の代弁者を見出したのである。彼が忽ち盛名を負ったのは、当然の事だと云わなければならぬ。 彼は第一高等学校に在学中、「笑へるイブセン」と云う・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・彼らは知らず識らず代弁者にたよることを余儀なくされた。単に余儀なくされたばかりでなく、それにたよることを最上無二の方法であるとさえ信じていた。学者も思想家も、労働者の先達であり、指導者であるとの誇らしげな無内容な態度から、多少の覚醒はしだし・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ 私が、子供の代弁をして、お母さんたちに望むところは止むを得ざるかぎり、家にいてもらいたい、そしてやさしい返事をして下さい。日本の家庭がみんなそう出来るなら、子供たちは、どんなに幸福なことであろうか。麗わしい家族制度のためにも、私は、お・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・そして、時に彼等の代弁となり、時に彼等の忠言者たらなければならぬものである。これを称して、私は、大衆作家と言い、或は民衆作家とも呼ぼうとします。 しかるに、今日は、『大衆に向くものを』という意図のもとに文芸が創作されつゝあります。 ・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・無智の農民の代弁となり、その生活を詩化することによって階級的侮辱から、また彼等を救わんとさえ試みたのである。 かくの如き、青年や、作家の行動を空想的にすぎぬと言ってしまうことができるであろうか? 行動は、即ち良心なりと信ずるかぎり、この・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・いかに深く理解するかによって、その作品は、児童の真の友達となり忠告者となり、最もよき代弁者ともなるのであって、いまゝでの如く強圧することのかわりに、内部的に感奮興起せしむるに至るのであります。常に、いゝ作品は、強いられたる感激でなくして、実・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・たゞ、この過渡期にあっては、知識階級中の若干分子が、その代弁者たることの止むを得ざることです。 それにつけて、都会の生活は、新聞に、雑誌に、実際をきくこと屡々なるけれど、今日の田舎の生活は、真実にして、尚お、階級意識の支持者たる、真のプ・・・ 小川未明 「街を行くまゝに感ず」
・・・彼は、殉教者であり、熱烈な無産階級の代弁者であり、また、実に其のものであるのです。『働かざるものは食うべからず』『彼等麺麭を得る能わざるに、菓子を食うは罪悪なり』これ等の語は、ソヴィエットの標語の如く知られているが、よく、其心持は分ると・・・ 小川未明 「民衆芸術の精神」
・・・きちんと下駄をぬぎ、文壇進歩党の代弁者である批評家から、下足札を貰って上るような作品しかない。「ファビアン」や「ユリシーズ」は土足のままの文学だ。僕は土足のままとまで行かなくても、せめて下足番から下駄を……と言われた時、いや僕ははじめからは・・・ 織田作之助 「土足のままの文学」
・・・予言者は天意の代弁者であり、その権威に代わる者だからである。 その同時代と、大衆への没落的の愛を抱かぬ者も予言者たり得ない。そのカラーを汚し、その靴を泥濘へ、象牙の塔よりも塵労のちまたに、汗と涙と――血にさえもまみれることを欲うこそ予言・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫