・・・ 南無三宝と呆気に取られて、目をみはった鼻っ先を、件の蝙蝠は横撫に一つ、ばさりと当てて向へ飛んだ。 何様猫が冷たい処をこすられた時は、小宮山がその時の心持でありましょう。 嚔もならず、苦り切って衝立っておりますると、蝙蝠は翼を返・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・白い雲、青い雲、紫の雲は何様でしょう。鬼子母神様は紅い雲のように思われますね。」 墓所は直近いのに、面影を遥かに偲んで、母親を想うか、お米は恍惚して云った。 ――聞くとともに、辻町は、その壮年を三四年、相州逗子に過ごした時、新婚の渠・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・或る一人が他の一人を窘めようと思って、非常に字引を調べて――勿論平常から字引をよく調べる男でしたが、文字の成立まで調べて置いて、そして敵が講じ了るのを待ち兼ねて、難問の箭を放ちました。何様も十分調べて置いてシツッコク文字論をするので講者は大・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・私なぞは当時あの書に対して何様な評をしたかと云うと、地質の断面図を見るようでおもしろいと云って居りました。 其後同君の文を余り目にしませんでしたが、近く「二狂人」や「ふさぎの虫」等の翻訳、其から色色の作を見まして漸く文壇の為に働かるる事・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・これは紙鳶を破るような拙なことを仕無いのと、一つは破れた紙鳶でも繕うことが上手であったからで、今でも私の手にかければ何様な紙鳶でも非常に良い紙鳶に仕て見せます、ハハハ。で、糸目の着加減を両かしぎというのにして、右へでも左へでも何方へでも遣り・・・ 幸田露伴 「少年時代」
上 鳥が其巣を焚かれ、獣が其窟をくつがえされた時は何様なる。 悲しい声も能くは立てず、うつろな眼は意味無く動くまでで、鳥は篠むらや草むらに首を突込み、ただ暁の天を切ない心に待焦るるであろう。獣は所謂駭き心になって急に奔ったり・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・は、文章にでも書いて其の文章に詩的の香があったらば少しは面白いか知れませぬが、ただ御話し仕たって一向おかしくもない事になりますから申し上げられません。 経験談の代りに「空想談」は何様です?。 旅行も日本内地は最早何等の思慮分別をも要・・・ 幸田露伴 「旅行の今昔」
・・・』『私何したッても、何様酷い目に会っても、兄さんに御目に掛ってよ。』『私もそうよ。久振りで御目に掛るんですもの。』『あらいやだ。』 若子さんは頓興に大きな声で、斯うお云いでしたから、何かと思うと、また学生がつい其処に立って居・・・ 広津柳浪 「昇降場」
・・・して、ことさらに官途の人のみにこれをあたうるに非ず、官職の働はあたかも人物の高低をはかるの測量器なるがゆえに、ひとたび測量してこれを表するに位階勲章をもってして、その地位すでに定まるときは、本人の働は何様にてもこれに関することなく、地位は生・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・もって悠然、世と相おりて、遠近内外の新聞の如きもこれを聞くを好まず、ただ自から信じ自から楽しみ、その道を達するに汲々たれば、人またこれに告ぐるに新聞をもってする者少なく、世間の情態、また何様たるを知らず、社中自からこの塾を評して天下の一桃源・・・ 福沢諭吉 「中元祝酒の記」
出典:青空文庫