・・・そんなことを考えていた時にちょうど改造社の『日本文学講座』に何か書けという依頼を受けたので、もし上掲の表題でも宜しければ何か書いてみようということになった。云わば背水陣的な気持で引受けた次第である。そんな訳であるから、この一篇は畢竟思い付く・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・元来がそう云う情ない依頼をあえてするくらいですから曲折どころではない、真直に行き当ってピタリと終いになるべき演説であります。なかなかもって抑揚頓挫波瀾曲折の妙を極めるだけの材料などは薬にしたくも持合せておりません。とそう言ったところで何もた・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・るという字に註釈が入る、この字は吾ら両人の間にはいまだ普通の意味に用られていない、わがいわゆる乗るは彼らのいわゆる乗るにあらざるなり、鞍に尻をおろさざるなり、ペダルに足をかけざるなり、ただ力学の原理に依頼して毫も人工を弄せざるの意なり、人を・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・、幸に其主人が之を弥縫して大破裂に及ばざることあるも、主人早世などの大不幸に遭うときは、子女の不取締、財産の不始末、一朝にして大家の滅亡を告ぐるの例あるに反し、賢婦人が能く内を治めて愚鈍なる主人も之に依頼し、所謂内助の力を以て戸外の体面を全・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・これを要するに、学問上の事は一切学者の集会たる学事会に任し、学校の監督報告等の事は文部省に任して、いわば学事と俗事と相互に分離し、また相互に依頼して、はじめて事の全面に美をいたすべきなり。 たとえば海陸軍においても、軍艦に乗りて海上に戦・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・という観念が出て来ると、私はそれに依頼されなくなる。心理学上の識覚について云って見ても、識覚に上らぬ働きが幾らあるか知れぬ。反射的動作なぞは其卑近の一例で、斯んな心持ちがする……云々と云う事も亦其働きだ。だから識覚の上にのぼって来る思想だけ・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・この事実が、婦人の職業の一つとして看護婦という立場をとった場合にでも、何となし先生に対して依頼心のつよい、命令に従順でさえあれば、看護婦としての範囲とその責任において、臨機に病人を扶けてゆく積極性をかくわけでしょう。 病気で苦しいとき、・・・ 宮本百合子 「生きるための協力者」
・・・知未見な生活に身を投じて、辛い辛い思いで自分を支えて行かなければならない――ここで、人として独立の自信を持ち得ない、持つ丈の実力を欠いている彼女は、何処かに遺っている過去の、殆ど習性にさえ成った日蔭の依頼主義の底力に押されて、非常に微細に、・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・これは医道のことなどは平生深く考えてもおらぬので、どういう治療ならさせる、どういう治療ならさせぬという定見がないから、ただ自分の悟性に依頼して、その折り折りに判断するのであった。もちろんそういう人だから、かかりつけの医者というのもよく人選を・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・栖方の学位論文通過の祝賀会を明日催したいから、梶に是非出席してほしい、場所は横須賀で少し遠方だが、栖方から是非とも梶だけは連れて来て貰いたいと依頼されたということで、会を句会にしたいという。句会の祝賀会なら出席することにして、梶は高田の誘い・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫