・・・ 私のこのような信念からは、青年学生への、実際的に有益な、恋愛についての心得を導き出すことは困難である。実際的とか、有益とかいう観念からして、もはや厳しい真理から逸れたものだからだ。 恋愛を一種の熱病と見て、解熱剤を用意して臨むこと・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・しかし日蓮宗の教徒ならぬわれわれにとっては、その教理がここで主なる関心ではなく、彼の信念、活動の歴史的意義、その人格と、行状と、人間味との独特のニュアンスとが問題なのである。 日蓮の性格と行動とのあとはわれわれに幾度かツァラツストラを連・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・革命運動などのような、もっとも熱烈な信念と意気と大胆と精力とを要するの事業は、ことに少壮の士に待たねばならぬ。古来の革命は、つねに青年の手によってなされたのである。維新の革命に参加してもっとも力のあった人びとは、当時みな二十代から三十代であ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 力士の如き其最も著しき例である、文学・芸術の如きに至っても、不朽の傑作たる者は其作家が老熟の後よりも却って未だ大に名を成さざる時代の作に多いのである、革命運動の如き、最も熱烈なる信念と意気と大胆と精力とを要するの事業は、殊に少壮の士に・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・私には、私としての信念があったのだ。けれども、それは、口に出して言っちゃいけないことだ。それでは、なんにもならなくなるのだ。私は、やっぱり歴史的使命ということを考える。自分ひとりの幸福だけでは、生きて行けない。私は、歴史的に、悪役を買おうと・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・頼れるだけの動かない信念をも持ちたいと、あせっている。しかし、これら全部、娘なら娘としての生活の上に具現しようとかかったら、どんなに努力が必要なことだろう。お母さん、お父さん、姉、兄たちの考えかたもある。(口だけでは、やれ古いのなんのって言・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ しかし案内者や先達の中には、自己のオーソリティに対する信念から割り出された親切から個々の旅行者の自由な観照を抑制する者もないとは言われない。旅行者が特別な興味をもつ対象の前にしばらく歩を止めようとするのを、そんなものはつまらないから見・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ 善い事だから宣伝しなければならないという強い信念の下にすべての宣伝は行なわるべきものであろう。便宜その他のあまり真剣でない雑多の動機から行なわるるものもないとは限らないが、そういうものは論外である。ほんとうの宣伝ならば、宣伝さるる事が・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・ こんな事になるのも、国政の要路に当る者に博大なる理想もなく、信念もなく人情に立つことを知らず、人格を敬することを知らず、謙虚忠言を聞く度量もなく、月日とともに進む向上の心もなく、傲慢にしてはなはだしく時勢に後れたるの致すところである。・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・昔から云い伝えている孝子とか貞女とか称するものが、そっくりそのままの姿で再現できるという信念が強くて、批判的にこれらの模範を視る精神に乏しかったと云うのがおもなる原因でありましょう。一口に云えば科学と云うものがあまり開けなかったからと云って・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
出典:青空文庫