・・・が、ただ先哲、孫呉空は、ごまむしと変じて、夫人の腹中に飛び込んで、痛快にその臓腑を抉るのである。末法の凡俳は、咽喉までも行かない、唇に触れたら酸漿の核ともならず、溶けちまおう。 ついでに、おかしな話がある。六七人と銑吉がこの近所の名代の・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・それ故わたくしは先哲の異例に倣うとは言わない。唯死んでも葬式と墓とは無用だと言っておこう。 自動車の使用が盛になってから、今日では旧式の棺桶もなく、またこれを運ぶ駕籠もなくなった。そして絵巻物に見る牛車と祭礼の神輿とに似ている新形の柩車・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・枕元に有朋堂文庫本の『先哲叢談』が投げ出されてあった。唖々子は英語の外に独逸語にも通じていたが、晩年には専漢文の書にのみ親しみ、現時文壇の新作等には見向きだもせず、常にその言文一致の陋なることを憤っていた。 わたしは抽斎伝の興味を説き、・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・かつまた、後来この挙に傚い、ますますその結構を大にし、ますますその会社を盛んにし、もって後来の吾曹をみること、なお吾曹の先哲を慕うが如きを得ば、あにまた一大快事ならずや。ああ吾が党の士、協同勉励してその功を奏せよ。・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・ あるいはいわく、倫理教科書は道徳の新主義をつくりたるに非ず、東西先哲の論旨を述べてその要を示したるまでのものなれば、その何人の手になり、また何の辺より出でたる云々の詮索は、無益の論なりとの説もあらんなれども、鄙見をもってすれば決して然・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
出典:青空文庫