・・・――と云うのは私も四五年前には、御本宅に使われていたもんですから、あちらの御新造に見つかったが最後、反って先様の御腹立ちを煽る事になるかも知れますまい。そんな事があっては大変ですから、私は御本宅の御新造が、さんざん悪態を御つきになった揚句、・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・「手前たちの思惑は先様御承知でよ。真鍮と見せて、実は金無垢を持って来たんだ。第一、百万石の殿様が、真鍮の煙管を黙って持っている筈がねえ。」 宗俊は、口早にこう云って、独り、斉広の方へやって行った。あっけにとられた了哲を、例の西王母の・・・ 芥川竜之介 「煙管」
・・・一通りの定まった版行で押した項目だけを暗誦的に説明してしまえばそれでもうおしまいで先様御代りである。少し詳しく立止まって見たいと思う者があっても、大勢に追従して素通りをしてしまわなければならない。吾人が学校で学問を教わるのは丁度このようなも・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
出典:青空文庫