・・・親方には半文の借りもした覚えはねえからな、俺らその公事には乗んねえだ。汝先ず親方にべなって見べし。ここのがよりも欲にかかるべえに。……芸もねえ事に可愛くもねえ面つんだすなてば」 仁右衛門はまた笠井のてかてかした顔に唾をはきかけたい衝動に・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・ 足の運びにつれて目に映じて心に往来するものは、土橋でなく、流でなく、遠方の森でなく、工場の煙突でなく、路傍の藪でなく、寺の屋根でもなく、影でなく、日南でなく、土の凸凹でもなく、かえって法廷を進退する公事訴訟人の風采、俤、伏目に我を仰ぎ見る・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・一身一家の不始末はしばらくさしおき、これを公に論じても、税の収納、取引についての公事訴訟、物産の取調べ、商売工業の盛衰等を検査して、その有様を知らんとするにも、人民の間に帳合法のたしかなる者あらざれば、暗夜に物を探るが如くにして、これに寄つ・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ひろく万国の書を読て世界の事状に通じ、世界の公法をもって世界の公事を談じ、内には智徳を脩て人々の独立自由をたくましゅうし、外には公法を守て一国の独立をかがやかし、はじめて真の大日本国ならずや。これすなわち我が輩の着眼、皇漢洋三学の得失を問わ・・・ 福沢諭吉 「中津留別の書」
・・・ で恋愛は自由というけれども、公事ではないから、自分の私事問題だ。これが社会的に問題となって各自責任があるのは、女のもっている、或は男のもって居る社会人としての責任義務を通して社会一般の問題となって行くだけである。 恋愛を其の日の事・・・ 宮本百合子 「ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て」
・・・で恋愛は自由というけれども、公事ではないから、自分の私事問題だ。これが社会的に問題となって各自責任があるのは、女のもっている、或は男のもっている社会人としての責任義務を通して社会一般の問題となって行くだけである。恋愛をその日の事業として暮す・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・それであるから、桂屋太郎兵衛の公事について、前役の申し継ぎを受けてから、それを重要事件として気にかけていて、ようよう処刑の手続きが済んだのを重荷をおろしたように思っていた。 そこへけさになって、宿直の与力が出て、命乞いの願いに出たものが・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・は石清水物語と呼ばれている部分で、信玄や老臣たちの語録である。これは古老の言い伝えによったものらしいが、非常におもしろい。は軍法の巻で、何か古い記録を用いているであろう。は公事の巻で、裁判の話を集録しているが、文章はに似ている。は将来軍記で・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫