・・・のショーウィンドウの鎧戸が引き上げられる、その音のガーガーと鵞鳥のガーガーが交錯する。そうしてこの窓にヒロインの絵姿のビラがはってあるのである。これを彼の「モロッコ」の冒頭に出て来るアラビア人と驢馬のシーンに比べるとおもしろい。後者のほうが・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 冒頭のドニエプル河畔の茫漠たる風景も静的である。こういう自然の中に生まれた国民のまねを日本人がしようとするのはほんとうに無意義なことである。 この映画は文部省あたりの思想善導映画として使われうる可能性をもっている。これは皮肉ではな・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・フォークトはその結晶物理学の冒頭において結晶の整調の美を管弦楽にたとえているが、また最近にラウエやブラグの研究によって始めて明らかになった結晶体分子構造のごときものに対しても、多くの人は一種の「美」に酔わされぬわけに行かぬ事と思う。この種の・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・その冒頭に、先ず有能な学者を日本に派遣して大学地震研究所におけるあらゆる研究の模様を習得せしめよということ、次に末広所長を米国に迎えて講演させ、また米国における将来の研究方針についてその助言を求め、また末広式の地震分析器を各所に据え付けて地・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ ヂェー・ワルクの編輯した『仏蘭西現代抒情詩選』の中、レニエーの部の冒頭に追憶の意を唱った Vers le pass の一篇が掲げられている。その初の一節に、Sur l'tang endormi palpitent les ro・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・その結果として冒頭だか序論だかに私の演説の短評を試みられたのはもともと私の注文から出た事ではなはだありがたいには違ないけれども、その代り厭にやり悪くなってしまった事もまた争われない事実です。元来がそう云う情ない依頼をあえてするくらいですから・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・という標題が目に触れたという冒頭が置いてあって、その次にこの無名式のいわゆる二十五日間が一字も変えぬ元の姿で転載された体になっている。 プレヴォーの「不在」という端物の書き出しには、パリーのある雑誌に寄稿の安受け合いをしたため、ドイツの・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・職業が細かくなりまた忙がしくなる結果我々が不具になるが、それはどうして矯正するかという問題はまずこのくらいにして、この講演の冒頭に述べた己のためとか人のためとかいう議論に立ち帰ってその約りをつけてこの講演を結びたいと思います。 それで前・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・先生は新刊第三巻の冒頭にある緒論をとくに思慮ある日本人に見てもらいたいといわれる。先生から同書の寄贈を受ける日それを一読して満足な批評を書き得るならば、そうして先生の著書を天下に紹介する事が出来得るならば余の幸である。先生の意は、学位を辞退・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・ 冒頭第一、女は容よりも心の勝れたるを善とすと言う。女子の天性容色を重んずるが故に、其唯一に重んずる所の容よりも心の勝れたるこそ善けれと記して、文章に力を付けたるは巧なりと雖も、唯是れ文章家の巧として見る可きのみ。其以下婦人の悪・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫