・・・その切迫した数日のうちに、苦しい涙が凝りかたまって一粒おちたという風にこの短篇をかいた。そして『新潮』に発表した。「鏡餅」はこんどはじめてこの本に集録された。一九三〇年の暮日本プロレタリア作家同盟に参加し、「小祝の一家」あたりから、進歩的な・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・ この劇中劇ではソヴェト同盟の劇場でも、小道具なんかに凝りすぎ、ウンと金をかけてしまったのを、管理局からやって来た役人へは胡魔化して報告する場面その他、見物が笑い出すところは相当ある。 空想的な扮装したレヴューの土人みたいな「赤紫島・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ この頃の小説の題は皆一凝りも二凝りもこって居ます。高見順の「起承転々」「見たざま」村山知義の「獣神」、高見順は説話体というものの親玉なり。それから「物慾」とか「情慾」とかそういう傾向の。高見順という作家は「毅然たる荒廃」を主張している・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・私の父がこの頃少し凝りかけていたので、自然そんな方面に向ったものと見える。そんな時も、氏は元気よい話手であった。そして、日本画壇の、所謂大家というものに対して、率直な不満を洩した。平福氏の画が好きなのは、その人格がすきだという話も聞いた。画・・・ 宮本百合子 「狭い一側面」
・・・無駄に手をふやすなって、メイエルホリドは、知ってる通りの凝りようだから。どうしても舞台装置に金をかける。それで叱られたことがあったそうだよ。 そうそう、メイエルホリドで思い出したが、エイゼンシュテインがアメリカでデマをとばされて、つか・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・それからとうとう芸術家のバルザックが出て来たかと思うと、それは多血質の、乱暴な、病的な男で、さまざまの観念が、盛り沢山な、凝りすぎた、埒外れな文体に盛られて、やっと外に飛び出すという状態である。このような人は、ひとと談話するすべを知らない人・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 藤村は着物でも食物でも独特な凝り方をしていて、その意味で相当ぜいたくであったと思う。飯倉片町の借家をただ外から見ただけの人には、その中でこういう凝った生活が営まれていることをちょっと想像しにくかったであろう。しかしその質素な住宅が、ま・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫