・・・ 二十分の後、村の南端の路ばたには、この二人の支那人が、互に辮髪を結ばれたまま、枯柳の根がたに坐っていた。 田口一等卒は銃剣をつけると、まず辮髪を解き放した。それから銃を構えたまま、年下の男の後に立った。が、彼等を突殺す前に、殺すと・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・客の眼がみな一様に前方を見詰めている事や、泥除け、それからステップの上へまで溢れた荷物を麻繩が車体へ縛りつけている恰好や――そんな一種の物ものしい特徴で、彼らが今から上り三里下り三里の峠を踰えて半島の南端の港へ十一里の道をゆく自動車であるこ・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・草雑りの青葉少なからず日の光に映してそよ吹く風にきらめき、海の波穏やかな色は雲なき大空の色と相映じて蒼々茫々、東は際限なく水天互いに交わり、北は四国の山々手に取るがごとく、さらに日向地は右に伸びてその南端を微漠煙浪のうちに抹し去る、僕は少年・・・ 国木田独歩 「鹿狩り」
一 市街の南端の崖の下に、黒龍江が遥かに凍結していた。 馬に曳かれた橇が、遠くから河の上を軽く辷って来る。 兵営から病院へ、凍った丘の道を栗本は辷らないように用心しい/\登ってきた。負傷した同年兵・・・ 黒島伝治 「氷河」
偶然のよろこびは期待した喜びにまさることは、わたくしばかりではなく誰も皆そうであろう。 わたくしが砂町の南端に残っている元八幡宮の古祠を枯蘆のなかにたずね当てたのは全く偶然であった。始めからこれを尋ねようと思立って杖を・・・ 永井荷風 「元八まん」
・・・これらは兼良の没後数年にして起こったことであるが、世界の情勢からいうと、インド航路打通の運動がようやくアフリカ南端に達したころの出来事である。 このころ以後の民衆の思想を何によって知るかということは、相当重大な問題であるが、私はその材料・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫