・・・そして、いつぞやの早まわりで賞品としてもらった小型フォードにのりこみ、ミュンヘンに潜入し、危険をおかしてひとたびはすてた家に忍びこんだ。そして原稿を盗み出し、真夜中に、もう二度とみる希望のないその家を去った。 二・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・そう云う人は危険思想家である。中には実際は危険思想家になっていながら、信仰のないのに信仰のある真似をしたり、宗教の必要を認めないのに、認めている真似をしている。実際この真似をしている人は随分多い。そこでドイツの新教神学のような、教義や寺院の・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・もしも人々に健康な叡智があるなら、感覚派と呼ばれる人々は更に生活の感覚化と文学的感覚表徴とを一致させては危険である。いやそれより若しも生活の感覚化がより真実なる新時代への一致として赦され強要せられなければならないものとしたならば、少くとも文・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・たやすく群集に理解されることは危険である。群集の喝采は必ずしも作者の勝利を示しはしない。虚偽と阿諛に充ちた作品をさえ喜ぶ人々の喝采は、恐らく不愉快なものだろうと思う。 万人の胸を潤す物を作ることは我々の理想である。我々は端的に「人間」の・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫