・・・というものは、はたから見ると、所謂「友情」によってつながり、十把一からげ、と言っては悪いが、応援団の拍手のごとく、まことに小気味よく歩調だか口調だかそろっているようだが、じつは、最も憎悪しているものは、その同じ「徒党」の中に居る人間なのであ・・・ 太宰治 「徒党について」
・・・するとまた言いたい事も出て来たので、水を飲み、こんどは友情に就いて話しました。「青春は、友情の葛藤であります。純粋性を友情に於いて実証しようと努め、互いに痛み、ついには半狂乱の純粋ごっこに落ちいる事もあります。」と言いました。それから、・・・ 太宰治 「みみずく通信」
・・・つぎに私は、友情と金銭の相互関係について、つぎに私は師弟の挨拶について、つぎに私は兵隊について、いくらでも言えるのであるが、いますぐ牢へいれられるのはやはりいやであるからこの辺で止す。つまり私には良心がないということを言いたいのである。はじ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ また音響効果のほうでも、たとえば立ち回りの場で、すぐ眼前を通過する汽車の響きと、格闘者の群れが舗道の石をける靴音との合奏を聞かせたり、あるいはまた終巻でアルベールの愛の破綻と友情の危機を象徴するために、蓄音機の針をレコードの音溝の損所・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・憎まれ児世に蔓ると云う諺の裏を云えば、身体が丈夫で、智恵があって、金があって、世間を闊歩するために生れたような人は、友情の籠った林檎をかじって笑いながら泣くような事のあるのを知らずにしまうかも知れない。あの頃自分は愛読していた書物などの影響・・・ 寺田寅彦 「枯菊の影」
・・・一つにはこれらの画家が子規と特別な親交があって、そうしてこの病友を慰めてやりたいという友情が籠っていたであろうし、また一つには当時他に類のなかったオリジナルでフレッシな雑誌の体裁を創成するということに対する純粋な芸術的な興味も多分に加わって・・・ 寺田寅彦 「明治三十二年頃」
・・・これは知らず知らず友情の然らしめたためであろう。あるひは幾分奨励の意を寓して、晩年更に奮発一番すべしとの心であるやも知れない。わたくしは昭和改元の際年は知命に達していた。二君の好意を空しくせまいと思っても悲しい哉時は早や過去ったようである。・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・次には忠、孝、義侠心、友情、おもな徳義的情操はその分化した変形と共に皆標準になります。この徳義的情操を標準にしたものを総称して善の理想と呼ぶ事ができます。この事はもっと委細に御話したいが時間がないから略して次に移ります。精神作用の第三は・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・七八年前は、「異性の間の友情」とか、「恋愛論」としてしか一般の常識の上にとりあげられなかった両性の社会関係についての考察が、この本の最後に集録されている文章の中では、はっきりと明日の、より幸福の約束された社会をつくるための、男女の新しい社会・・・ 宮本百合子 「あとがき(『幸福について』)」
先頃、友情というものについてある人の書かれた文章があった。その中にニイチェの言葉が引用されている。「婦人には余りにも永い間暴君と奴隷とがかくされていた。婦人に友情を営む能力のない所以であって、婦人の知っているのは恋愛だけで・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
出典:青空文庫