・・・その頃を見計らって箒で掃き集めると米俵に一俵くらいは容易に捕れるというのである。また、鴉を捕る法としてはこんなのがある。牛の脊中へ赤い紙片を貼付け、尻尾に摺粉木を一本縛り付けて野良へ出しておく。鴉が下りて来て牛の脊中の赤い紙を牛肉と思ってつ・・・ 寺田寅彦 「重兵衛さんの一家」
・・・大分手間が取れるようだ。本統に帰るのか知らん。去らなきゃ去らないでもいい。情夫だとか何だとか言ッて騒いでやアがるんだから、どうせ去りゃしまいよ。去らなきゃそれでいいから、顔だけでもいいから、ちょいとでもいいから……。今夜ッきりだ。もう来られ・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・これならネストと云ってもいい。これなら取れる。ハムマアの尖った方ではだめだ。平たい方は……。水がぴちゃぴちゃはねる。そっちの方のものが逃げる、ふん。〔水がはねますか。やっぱりこっちでやるかな。〕白く岩に傷がついた。二所ついた。・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・それぁきっとよく捕れるんでしょう。バキチはそれをきいたのです。毎晩お神明さんの、杉のうしろにかくれていて、来るやつを見ていたそうです、そしていよいよ網を入れて鯉が十疋もとれたとき、誰だっこらって出るんでしょう、魚も網も置いたまま一目散に逃げ・・・ 宮沢賢治 「バキチの仕事」
・・・これを人間の方から云いますと、わなにもいろいろあるけれども、一番狐のよく捕れるわなは、昔からの狐わなだ、いかにも狐を捕るのだぞというような格好をした、昔からの狐わなだと、斯う云うわけです。正直は最良の方便、全くこの通りです。」 私は何だ・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・「おじさん。もう飢饉は過ぎたの。手伝いって何を手伝うの。」「昆布取りさ。」「ここで昆布がとれるの。」「取れるとも。見ろ。折角やってるじゃないか。」 なるほどさっきの二人は一生けん命網をなげたりそれを繰ったりしているようで・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・最高五百円の月給、世帯主は一ヵ月生活費として三百円受取れ、あとは家族の頭数割で、一人百円ずつで、もし家族五人のところでしたら、一ヵ月の生活費として七百円、それに月給の五百円と合計月に千二百円取れるから今までの生活より余程いいということ、楽な・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・どれ程月給が取れるものだか、又どれ程人間二人の生活費が必要なものだかも分って居ない。私は、当分H町の、離れた二部屋を自分等の巣とする積りで居た。 十幾年振りかで故国に帰り、それと、結婚したからこそ帰る気にもなったと云うような彼に対して、・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ 行って見た事もないから、どうしてそんな事になるのか分りもしないけれ共、毎日毎日働いて居るのに取れる筈の米の取れないのは私達では不思議に思える。 地主と小作人などはお互に都合の良い様に仕合ってうまく行きそうに思えるけれ共、実際は、な・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 何かに引っかかった足は、どうしても取れるどころか、身をもがけばもがくほどひどくしまって来て、大きな大きな叫び声と共に、彼の体はすっかり、でんぐる返しになって仕舞ったのである。 天地が真暗になった様な気がした瞬間に、彼はすべての事を・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
出典:青空文庫