・・・「そうすると諸君は皆詩人の古手なんだね、ハッハッハッハッハッ奇談々々!」と綿貫が叫んだ。「そうか、諸君も作たのか、驚ろいた、その昔は皆な馬鈴薯党なんだね」と上村は大に面目を施こしたという顔色。「お話の先を願いたいものです」と岡本・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・とそのB教授の手紙を想い出すと同時にこの抽出しとS先生の手紙を想い出したのであったが、今ではもう昔の教室の建物はすっかり取毀されてしまって、昔の机などどうなったか行衛も分らず、ましてやその抽出しの中の古手紙など尋ねるよすがもなくなってしまっ・・・ 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
・・・しかし、二人ともにそうだが、ことにK市の姉はよく孫のだれかに手紙の上封などをかかせる事があるからと思って、戸棚の中から古手紙の束を出して来て、いくつかの姉の手紙を拾い出して比べて見た。 K市の姉からのあて名の手跡の或るものは小包のと似て・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・ 表装でもしておくといいと思いながらそのままに、色々な古手紙と一しょに突込んであったのを、近頃見せたい人があって捜し出して書斎の机の抽斗に入れてある。せめて状袋にでも入れて「正岡子規自筆根岸地図」とでも誌しておかないと自分が死んだあとで・・・ 寺田寅彦 「子規自筆の根岸地図」
・・・ちょいと見たところは、もう五六歳も老けていたら、花魁の古手の新造落ちという風俗である。 呆れ顔をしてじッと見ていた小万の前に、吉里は倒れるように坐ッた。 吉里は蒼い顔をして、そのくせ目を坐えて、にッこりと小万へ笑いかけた。「小万・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
一 陽子が見つけて貰った貸間は、ふき子の家から大通りへ出て、三町ばかり離れていた。どこの海浜にでも、そこが少し有名な場所なら必ずつきものの、船頭の古手が別荘番の傍部屋貸をする、その一つであった。 ・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・そこへ巧みにつけ入って、ドイツ民族の優秀なことや、将来の世界覇権の夢想や、生産の復興を描き出したヒトラー運動は、地主や軍人の古手、急に零落した保守的な中流人の心をつかんで、しだいに勢力をえ、せっかくドイツ帝政の崩壊後にできたワイマール憲法を・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
出典:青空文庫