・・・そうして昔と同等以上の愚を繰り返しているのである。 昔の為政者の中にはまじめに百年後の事を心配したものもあったようである。そういう時代に、もし地震学が現在の程度ぐらいまで進んでいたとしたらその子孫たる現在のわれわれは地震に対してもう少し・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・カッフェーの女給はその頃にはなお女ボーイとよばれ鳥料理屋の女中と同等に見られていたが、大正十年前後から俄に勃興して一世を風靡し、映画女優と並んで遂に演劇女優の流行を奪い去るに至った。しかし震災後早くも十年を過ぎた今日では女給の流行もまた既に・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・二個以上の物体を同等の程度で好悪するときは決断力の上に遅鈍なる影響を与えるのが原則だ」とまた分り切った事をわざわざむずかしくしてしまう。「味噌汁の実まで相談するかと思うと、妙なところへ干渉するよ」「へえ、やはり食物上にかね」「う・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・評家は自己の得意なる趣味において専門教師と同等の権力を有するを得べきも、その縄張以外の諸点においては知らぬ、わからぬと云い切るか、または何事をも云わぬが礼であり、徳義である。 これらの条項を机の上に貼り附けるのは、学校の教師が、学校の課・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・同時にいくら糊細工の臭味が少くても、すべての点において存在を認むるに足らぬ事実や実際の人間を書くのは、同等の程度において駄目である。花袋君も御同感だろうと思う。 小生は小説を作る男である。そうしてところどころで悪口を云われる男である。自・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
・・・少くとも芸妓を上げて酒を飲んだと同等以上の効果がありそうに思われるのであります。あなた方もこういう公会堂へわざわざこの暑いのに集まって、私のような者の言うことを黙って聴くような勇気があるのだから、そういう楽な時間を利用して少し御読みになった・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・四種の理想は皆同等の権利を有して人生をあるいている。あるくのは御随意だが、権利が同等であるときまったなら、衝突しそうな場合には御互に示談をして、好い加減に折り合をつけなければならない訳です。この折り合をつけるためには、自分が一人合点で、自分・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・なると、少々込み入った解剖の力を借りなければ何とも申されませんが、そうした問題の関係して来ない場合もしくは関係しても面倒でない場合には、自分が他から自由を享有している限り、他にも同程度の自由を与えて、同等に取り扱わなければならん事と信ずるよ・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・すなわち学問社会上流の人物は、政事社会上流の人物と、正しく同等の地位に立ちて毫も軽重あるべからず。ただ、相互にその事業を干渉せざるのみ。 朝廷には位を貴び、郷党には齢を貴ぶというは、政府の官職貴きも、これをもって郷党民間の交際を軽重する・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・かつその仲間の教育なり年齢なり、また門閥なり、おおよそ一様同等にして抜群の巨魁なきがために、衆力を中心に集めて方向を一にするを得ず。ついに維新の前後より廃藩置県の時に際し今日に至るまで、中津藩に限りて無事静穏なりし由縁なり。もしもこの際に流・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
出典:青空文庫