・・・士が共に談じ共に笑い、同所に浴こそせざれ同席同食、物を授受するに手より手にするのみか、其手を握るを以て礼とするが如き、男女別なし、無礼の野民と言う可きなれども、扨その内実を窺えば此野民決して野ならず、品行清潔にして堅固なること金石の如くなる・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・余輩ここに上下の字を用ゆといえども、敢てその人の品行を評してこれを上下するに非ず。改進家流にも賤しむべき者あらん、守旧家流にも貴ぶべき人物あらん。これを評論するは本編の旨に非ず。ただ、国勢変革の前後をもって、かりに上下の名を下したるのみ。・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・蓋し廃藩以来、士民が適として帰するところを失い、或はこれがためその品行を破て自暴自棄の境界にも陥るべきところへ、いやしくも肉体以上の心を養い、不覊独立の景影だにも論ずべき場所として学校の設あれば、その状、恰も暗黒の夜に一点の星を見るがごとく・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・ かくの如くして多年の成跡を見るに、幾百の生徒中、時にあるいは不行状の者なきに非ずといえども、他の公私諸学校の生徒に比して、我が慶応義塾の生徒は徳義の薄き者に非ず、否なその品行の方正謹直にして、世事に政談にもっとも着実の名を博し、塾中、・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・父母の行状に在り。徳教は耳より入らずして目より入るとは我輩の常に唱うる所にして、之を等閑にす可らず。父母の品行方正にして其思想高尚なれば自から家風の美を成し、子女の徳義は教えずとても自然に美なる可し。左れば父母たる者の身を慎しみ家を治むるは・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・兵馬匆卒の際、言論も自由なれば、思うがままに筆を揮うてはばかるところなく、有形の物については物理原則のあざむくべからざるを説き、無形の事に関しては人権の重きを論じ、ことに独立の品行、自尊自重の旨を勧告してその著書も少なからず、これがために当・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・独立の品行、まことに嘉みすべしといえども、おのずからその限りあるものにして、限界を超えて独立せんとするも、人間生々の中にありて決して行わるべきことに非ず。 たとえば言語の如し。一地方にありて独立独行、百事他人に殊なりと称する人にても、そ・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・故に、かの国々の男子が不品行を犯すは、初めよりその不品行なるを知り、あたかも輿論に敵して窃かにこれを犯すことなれば、その事はすべて人間の大秘密に属して、言う者もなく聞く者もなく、事実の有無にかかわらず外面の美風だけはこれを維持してなお未だ破・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
○Aの教えかた ○夫妻の品行ということ、 ○自分の子についての心持 ○母のない子、母というものの大切さ。 ○頼られるという人のたち、 ○自分のうそ。それにつれて考えた ○人格の真の力の養い、 ○・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・安穏寺の住職は東京で新しい教育を受けた、物分りの好い人なので、佐野さんの人柄を見て、うるさく品行を非難するような事をせずに、「君は僧侶になる柄の人ではないから、今のうちに廃し給え」と云って、寺を何がなしに逐い出してしまった。そこで佐野さんは・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫