・・・あれは偶然のような必然のような歴史を有しているが相互に相互を研究し啓発すると云う大原則を政治上にうまく応用したものであります。もっともこれは圏外の競争の意味である。そうして、日本の作物が輓近四五年間に大変進歩したのは、全くこの圏外の競争心の・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・無論偉くない人だから本統に啓発するほど教えなかったが、教場に立って先生と呼ばれ、生徒と呼んだことは確かにある。なお自白すれば、熊本に来たてであります。私の前に誰か英語を受持っておって、私はその後を引受けた。エドマンド・バークの何とかいう本で・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・ かく私が啓発された時は、もう留学してから、一年以上経過していたのです。それでとても外国では私の事業を仕上る訳に行かない、とにかくできるだけ材料を纏めて、本国へ立ち帰った後、立派に始末をつけようという気になりました。すなわち外国へ行った・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・だから、誉められても標準に無交渉なので嬉しくもなければ、譏られても見当違いだから、何の啓発される所もなかった。いわば、自分で独り角力を取っていたので、実際毀誉褒貶以外に超然として、唯だ或る点に目を着けて苦労をしていたのである。というのは、文・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・人間は、より高大な、啓発された生活へ自分の霊を育てる為の助力者、試金石、として、先ず最も自分に近く、最も自分の負うべき自明の責任の権化である配偶を持たずには居られない本能を有するのではないか。 少くとも、自分は自分の結婚に対して、以上の・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・ ソヴェト市民は一九一七年以来文盲撲滅を努力的に行って、もとはインド、中国と並んでいた文盲のロシア人民を、啓発してきた。本を読む人口は全人口の尨大な部分をしめている。これはシーモノフなどの文学作品の発行部数が数百万部というのでも想像され・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 先生が、教える学課を何かの機縁にして、一人一人の生徒が自己を啓発して行くように努力されたことは、公平に、時を惜まず、箇人的な質問に応じられたことでも明であった。 学課についてでも、課外の読書に関してでも、或はもっとプライヴェー・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・然し私自身ではない――つまり、それによって、私が慰撫され、啓発され、人間らしい豊富な感情の一面を感得するものでありながら、自身の裡には乏しくほか生来持合わせない何ものかを、貴女の性格には豊饒に賦与されておられるということなのでございます。・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・一般人の生活水準の低下と社会的自主性の低減は、日本のブルジョア文学の独特な伝統が、ヨーロッパのイッヒ・ロマンとはまた異った歴史性をもつ私小説について自我の啓発、探求をもとめているにかかわらず、遂に芸術の中に語るに足るだけの自我の内容と発動と・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・最近の数年間、世界はこの最も古い而も最も若い文化、芸術の巨きい星の放つ光によって、如何程多く啓発されたことであろう。「文学は神々をさえ創造した人類への奉仕である」ことを確信し、「錯雑した歴史の事件の中に自分自らを見出し、そして全人類的な・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
出典:青空文庫